『機動戦士ガンダム サンダーボルト』監督×漫画原作者初対談【後編】 「自分の胃袋の丈夫さを試すつもりで観に来て下さい」

2016年6月25日(土)に2週間限定のイベント上映が開始された、『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』。本作は、一年戦争を舞台に漫画家・太田垣康男が描いた『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメ化作品。松尾衡監督と漫画原作者・太田垣康男さんの初対談インタビューの前編では、アニメのもの作り論や、サイコ・ザクが生まれたいきさつなどをたっぷりと伺った。後編では骨太なドラマや劇中の音楽の話をお楽しみ頂きたい。

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写真左が太田垣康男氏、写真右が松尾衡監督。6月24日(金)収録。


■『ガンダム』ファンではない方にも楽しめる『ガンダム』

――『サンダーボルト』では、濃厚な人間ドラマが描かれていて、『ガンダム』がわからないという方でも、ドラマから楽しんでいただける内容になっていると思います。お二人がここをこだわった、という部分は?


太田垣:『サンダーボルト』は、青年雑誌で連載するという前提があり、一年戦争もガンダムも知らないという方に見せることになる。そんな方でも面白いと思ってもらうことを目指しました。コアな『ガンダム』ファンのことは一旦忘れて、一般の人に向けて描いてみようと思ったんです。その時のやり方が、なんとか功を奏して単行本のヒットに繋がったのかな。もちろん、『ガンダム』ファンの後押しもあったと思いますし、そこはすごく感謝しています。でも、やっぱり「一般の人にどれだけ受け入れてもらえるか」が勝負だと思っていたので。劇場上映アニメも、そのブースターになってくれると思います。


松尾:アニメに関していえば……なにせアニメのスタッフが、詳しい人しかいないんですよ。スピンオフでもあり宇宙世紀の漫画でもある本作を映像化する際に、どこまで設定を引き継ぐかは悩みました。「昔の設定ではこうだけど、後で正式な設定ではこうなった」とか、細かいものがいっぱい出てくるんですよ。『ガンダム』ファンにとっては当たり前になっている設定をやらなさすぎると周囲を敵に回すことになりかねなくて、それは損だな、と。そこで本作では物語を強調しました。漫画の中には、もっと魅力的なキャラクターや台詞があるけど、それらは極力カットして、二人の主人公であるイオとダリルのドラマにとにかく集中してもらおうと。そうすることで、『ガンダム』独特の設定が出てきても、物語の縦に流れているストーリーはブレないな、と。一般の方が見た時も「一年戦争って?」とか「ガンダムってそもそもなんなの?」っていう部分が、(ほかの『ガンダム』作品を見た時に)「あ、これなんだ」って思ってもらえたらお得だと思ったので。

――後から、正史を学ぶようなものですか?


松尾:映像から入った人が漫画を読んで、「このキャラクターって、こんなバックグラウンドがあるんだ」と思ってくれればと。逆に何故アニメに入れなかったの、とか思われるかもしれませけど。でも、おかげで一般の方へのハードルを下げられたと思っています。


■「これから大人になりたい人」にこそ見て欲しい

――『ガンダム』はシリーズが多くてどの作品から見たらいいかわからない、と言われる方が多いですが、本作は「骨太なドラマが好き」という方なら、すぐに薦められる作品だと思いました。どんな方にこの作品を見てもらいたいですか?


太田垣:漫画の方は、できれば高校生や大学生とか、そういう年代に読んで欲しいと思います。上映版は、この機会に若い人たちに見て欲しい。僕たちと同じ40代50代のファンの方が圧倒的に多くて、この人たちが一番『ガンダム』を理解してくれる世代です。だったら、自分の子供の世代と一緒に見て欲しい。で、一緒に話すきっかけになって欲しいな、と思います。


松尾:たくさん人が死んでますけどね。


太田垣:そこも含めて、これは戦争の物語でもあるわけですから。戦争というものを客観的に描いたという意識はあります。普通は避けるようなところも、あえて避けずに描いた。戦争に無知にならないで欲しいし、そのキッカケになって欲しいな、と。


松尾:ドキュメンタリーチックにするか、ファンタジーチックにするか、というのはありましたね。SFだとファンタジーチックになるけど、一方でちゃんとしたものはドキュメンタリーチックに描きすぎている。僕が10代の頃、その折衷案として描かれていた映画ってたくさんあったはずなのに、なんだか「間違えて子供が見たら悪影響」という風潮の影響ですかね。この作品は「大人向けですよね」「大人っぽいですよね」って言われるんですが、僕自身は10代の子が見られないものを作った覚えはないですね。


――本作に登場する少年兵たちと同じ10代の人たちが見ても、「戦争になったら、こうして戦うのかもしれない」というような同世代的な共感があるかもしれませんね。


太田垣:個人的には年代的なものではないと思っています。『サンダーボルト』は「大人ガンダムだ」ってよく言われます。それは年齢の高い人たちが見るものではなくて「これから、大人になりたいんだ」って思う人が見て欲しいな、と。これを見ると、ちょっと大人の世界が見えるんですよ。逆に、40代50代になってもまだ子供でいたいって思う人は理解できなくてもいいかな、って。大人が生きている世界ってどうなっているんだろう、とか。大人の世界ってどんなもんなんだろうとか。その入り口を見てほしい。あと、モラトリアムで子供のままでいようとせず、さっさと社会に出やがれ、っていう。


――社会は、なかなか大変ですもんね。


太田垣:だからこそ、戦っていかないといけない。今の若い人たちは、そういう時代に直面しているとも思う。


松尾:これでもし、次に僕が『ピーターパン』とかつくってたら、ごめんなさい。


一同:(笑)


太田垣:「人間ブレる」という証拠になりますね(笑)


■お互いに知らないからこそ引き出させた魅力

――もう1つの魅力としてある「音楽」、中でもジャズなんですけど、お二人は実はジャズにはあまり詳しくない、とお聞きました。


松尾:音楽が使いづらい、わからないというより、先に尺が決まっていました。音楽シーンになるとどうしても長くなるんですよ。短くコンパクトにはなかなか出来ない。それが、一番頭を悩ますなって思っていまして。あと、これを誰がやるんだ、と。


『ガンダム』は、知名度があるので「それっぽい」ものは作れない。なのでジャズに精通している人――作っても文句をつけられない人にお願いするのがベストだよね、って話から、菊地成孔さんの名前が上がりました。『LUPIN the Third -峰不二子という女-』のお仕事しか知らないという、すごく失礼な状態だったんだけど、でもすごくキレたサントラだった。厚顔無恥を覚悟で、お願いしたんです。


――菊地さんは、『ガンダム』というアニメを全く知らなかったんですか?


松尾:知らないですね。でも、向こうは『ガンダム』を知らない。僕はジャズを知らない。なら、お互い補完しながらやりましょう、と。


――それが、いい化学反応に?


松尾:というより、お互いに丁寧に説明しないといけなくなったので、勘違いがなくていい経験になりました。日本映画の悪癖とも言われますが、日本って情報化社会で「みんな知っている」という前提で話を進めようとする。アメリカだと一から説明することに長けているんですが、日本だと「このくらい判るよね」で進めていってしまう。それによって、変に誤解や勘違いを産んでしまう。なので今回はお互いに情報を引き出せた、というのは良かったなって勝手に思っています。


――太田垣さんは、完成した音楽を聴かれていかがだったでしょうか? 


太田垣:もちろん、想像を超えていました。『サンダーボルト』は、ガンダムを知らない人に向けてつくったんですね。「知らない人にどうすれば伝わるだろうか」というのはマンガも、アニメも、そして、音楽もそう。だから、ガチを出さないといけない。菊地さんのライブを聴きに行きましたが、アニメのサントラだからとか、『ガンダム』だからとか、合わせるようなことを彼は全くしていないとわかりました。菊地さんが「カッコイイ」と感じたものを「喰らいやがれ!」って言ってるように感じます。プロ同士の矜持といいますか……そういうもので作られた作品だと思っています。『サンダーボルト』にしても、漫画発のものを本家のサンライズがアニメ化するというのは、プライドが傷つくんじゃないか、と思っていました。でも、あえてやるからには、サンライズさんの中にも「なめんじゃねーぞ」というような圧力を感じましたね。


松尾:(笑)


太田垣:実際そういう映像になっていると思います。負けん気や勝負してくる感じ。そこに音楽も入ってきた。そういう意味では、すごく攻撃的なアニメになっていると思います。ぜひ、劇場で爆音で聞いてほしいですね


■『サンダーボルト』は、胃袋の丈夫さを試す作品

――これから本編を見る一般の方へ、見どころを一言ずつお願いいたします。


太田垣:見終わった後、スッキリするアニメではないです。もしかしたら、見終わった後、イヤな気分になる可能性もあります。でも、面白かったね、ハッピーだったねというような薄っぺらなものを、みんな欲しいの? 胃袋にドスンとくるようなものが欲しいんじゃないの? そういうのを見たいと思っている人はいっぱいいるはずなんです。自分の胃袋の丈夫さを試すつもりで観に来て下さい。


――胃袋の丈夫さ!


松尾:消化できなかったらお前の負け、ってことですよ。


太田垣:そういう勝負をしているアニメだと思うので、ぜひかきこんで観て下さい。で、腹下すか消化しきるか。試してみて下さい。


松尾:内容は太田垣さんがおっしゃってくれた通りなんで、SE(効果音)にも気をつけてほしいですね。劇場上映版制作にあたって、音楽をいくつか削ったんですけど、そしたら結構ちゃんとSEが入っていることに気付いて。これが、『ガンダム』という世界観を押し上げ、『ガンダム』らしさを出してくれた記号だと思っています。劇場だと細かい音もたくさん聞こえると思うので、耳を立ててほしいですね。


――本日はありがとうございました。


『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』

6月25日(土)よりイベント上映&配信&Blu-ray劇場先行販売同時スタート

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