『機動戦士ガンダム サンダーボルト』監督×漫画原作者初対談【前編】 サイコ・ザクはこうして生まれた

2016年6月25日(土)に2週間限定のイベント上映が開始された、『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』。本作は、一年戦争を舞台に漫画家・太田垣康男が描いた『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のアニメ化作品。2015年より全4話構成で有料配信され、今回イベント上映された『DECEMBER SKY』は再編集と新作カットを加えたディレクターズカット版だ。


本作の上映に合わせ、監督の松尾衡と漫画原作者・太田垣康男の初対談インタビューが実現。制作にかかった苦労や本作の見どころ、作品に込めた想いなどをたっぷりと伺った。

■最初の編集をした時に「あ、いけそうだ」

――『機動戦士ガンダム サンダーボルト』のディレクターズカット版が上映となりましたが、完成してみての手応えはいかがだったでしょうか?


松尾:出来上がって一か月くらいになるので、完成しての感触というのはなくなってきていますけど、配信版をくっつけるだけでは、ダメだろうなって思っていたんですよ。でも、最初の編集をした時に「あ、いけそうだ」と思い、ほっとしたというか。完成した時よりも編集の時の方が、そういった感触がありました。


――新作カットも多く入っているとお聞きしました。


松尾:配信版は各話15分ずつで見せていかないといけなくて、結構ペースも早いので、さっき言った「ほっとした」がなければ、間のカットをもっと増やさないといけないと思っていました。でも、既存のカットの秒数をいじるだけで、お客さんが喜ぶカットを増やすことができるな、って思って。それが、ちょっと楽しかったですね。


――太田垣さんにお尋ねします。本作はもともと映画一本分のボリュームを想定してつくられたということですが、1本の作品として御覧になって、あらためていかがだったでしょうか?


太田垣:監督さんが今言われた通り、4話のつながりのところで途切れるんじゃないかと心配で、一番気になっていました。でも、ただつなげただけの作品ではなくて、流れるように後半に向かっていくスピード感を堪能出来ました。漫画よりもスピード感・密度感は上だと思ったので、なんというか、嬉しい反面、悔しかったですね。


一同:(笑)


太田垣:特に後半の戦闘シーンはよかったですね。あれを見るたびに悔しい悔しいって。


松尾:でも、こっちは後出しジャンケンなんでね。

■今後のCGアニメにも影響を与えるだろう、手描きの戦闘シーン

――戦闘シーンというところで、本作はガンダムなどのMS(モビルスーツ)が手描きで描かれていますよね。ここは、本作のポイントだと思うのですが、制作にあたっての苦労などはありましたでしょうか?


松尾:逆に……CGじゃダメですか?


――個人的に、手描きのガンダムには魅力を感じます。


松尾:質問の趣旨とは違う答えになりますけど、CGを取り入れることを否定したわけではないんですよ。CGだから見せられるもの、効率よく出来ることも絶対的にある。でも、今回はスケジュール的にも予算的にもその余裕がなかった。サンライズの制作体制などをふまえて、作画がベストな選択だろうと。なので、決してCGが悪いとは思ってないんです。


でも、苦労という意味では作画さんはたくさん苦労したと思いますよ。「松尾ってやつが、こんなに線が多いのに、こんな動かしやがって」って。僕は線が多いから1枚絵でスライドでつなぐとか、パチっと光る絵があったら次は切れている絵があったりとか、そういう見せ方が、とにかく嫌いで。アニメのテクニックとかいいながら、限られた時間の中でつくるための小細工ですよね。でも、そういうのそろそろやめようよって。線が多くて、多少崩れてもいい、でも辛抱強くやる。僕の苦労というより、作画さんの苦労です。実は仕上げもかなりやってもらってます。


――確かに、ロボットだと線も色も多いですよね。


松尾:それが、どんどん増えていったでしょ。あ、太田垣さんのせいじゃないですよ?


太田垣:なんだ。今、ディスられているのかと。でも、そういう意味では戦犯は僕ですよね(笑)

――太田垣さん的には、作画されて動いているメカを見て躍動感といいますか、アニメーターさんのお仕事を見ていかがだったでしょうか?


太田垣:近年は、CGがアニメでもマンガでも受け入れられるようになってきまして、そこに感じるお客さんの反応って様々なんですよ。ロボットものに関してはCGを使うと、冷たく感じて感情移入がしづらい――と、そういう反応があるんですね。なので、私は下書きではけっこうCGを使っているんですが、完成した時の原稿では手描き感を優先して、手描きに見えるような加工をしています。なので、アニメ化にあたって、手描きを選択したのは、賢明だと思います。まだまだCGって開発の余地があると思うんですよ。それはハリウッドがやっているようなスタイルのCGではなく、手描きのアニメに近いものというか。ロボットの手描き作画は、これからそんなに長くは続かないと思うんですよ。でも、その手描きのノウハウをCGの方にフィードバックして、より手描き感のあるCGアニメを今後はつくって欲しいな、と思います。本作は、その布石になるんじゃないかな、と。


――いい意味で、CGの良さと手描き感の良さが洗練されていくという。


■「結構、根はひん曲がっている人なんだろう」

――『サンダーボルト』がきっかけで、お二人が出会われたときの第一印象をお聞きできればと。


松尾:絵から受ける印象と人物像はずれてないな、と思いました。なよっとした人ではないと思っていたので(笑)


太田垣:内面はひょろっとしていますけどね(笑)


松尾:そんな人は、あんなゴリっとした線は描かないですよ(笑)「これがカッコイイ」って思っている人って、だんだんとそういう風になっていくじゃないですか。そういうことを長くやってらっしゃるんだな、と。


――太田垣さんは、松尾監督の第一印象はいかがでしたか?


太田垣:松尾監督とはスタジオで初めてお会いしたんですけど、そのとき『ガンダム Gのレコンギスタ』の絵コンテをしていまして。それを見せていただいたんですけど、思った以上に細かくて。絵コンテの説明のはしばしに誰かに対するディスりがあって、「あ、この人、根は結構ひん曲がっている人なんだろうな」と。


一同:(笑)


太田垣:でも、それで安心した覚えがあります。仲間意識を感じたというか。優しいだけだと、作品作りって出来ないですよね。優しそうに見えて、ハングリー精神だったり、ファイティングスピリットを持ってないと、特に『ガンダム』という冠のついた作品の陣頭指揮はとれないと思ったので。調整役としての監督さんじゃなくて、ちゃんと自分の色を出す監督さんなんだろうなって感じられました。昨日も呑んでいましたけど、間違ってなかったなと再認しました。


■洗練されていないからこそ。『サンダーボルト』独自の魅力

――松尾監督は、これまで数多く『ガンダム』作品を手がけられてきたと思いますが、これまでのガンダム作品と本作の大きな違いはありますでしょうか?


松尾:そんなに多くガンダムやったっけ? という感じもありますけど、富野由悠季さんの仕事が多かったせいかもしれませんね。MSを兵器よりはキャラクターとして描く人だったのですが、多くの人がそれを「兵器」として捉えるつかみどころが時々あって。そこをとっかかりにしたガンダムは、いくつかあると思います。今回は、その部分を特化した作品といえるかもしれませんね。これまでのガンダムの「ここがよろしかろう」という部分と僕が好きなガンダムの色……太田垣さんも言っていましたけど、僕も何かしら痕跡を残す男なので。本作でいえば、例えば兵器として描くといいながら、わりと走ったり、蹴ったりということを忘れないようにしました。ミリタリーとしての堅さと、動いた時のしなやかさ。特にサイコ・ザクですね。ガンダムの方は、もう少し動きが硬くてもいいかなと。サイコ・ザクについては、ダリルがあんな状態ですから、自分の手足を手に入れたという感じにするなら、伸びやかに、しなやかに、力強く動いて欲しいと思っていました。

――本作で、サイコ・ザクは『ガンダム』ファンも含めて、見る人にとっては衝撃的な設定だったんじゃないかと思いますが、あの発想はどこからきたのでしょうか?


太田垣:漫画の話をいただいた時、MSV風のことをやりたいと思ってました。フルアーマー・ガンダムと高機動型ザクはMSVでも人気のあるMSですが、こいつら活躍した場面を見たことないぞ、と。この2機がどういう風に戦うのか自分でも見てみたいし、挑戦してみたいと思いました。でも、フルアーマー・ガンダムが、あそこまで強そうになっちゃうと「これに対抗できるザクって?」と思いまして、とても普通の高機動型ザクでは勝てそうにない。私はカトキハジメさんのようにデザイナー本職ではないので、デザインラインでのアイデアがなかなか出ない。なら、てんこ盛りにしちゃえ、という単純な発想で、後ろに武器をたくさんつけて、ボリュームたっぷりなザクにしたんですよ。でも、これは普通の人では扱いきれないだろうなと思った時に、キャラクターの方で考えていた義手・義足というネタとサイコ・ザクのネタがうまく重なっていったんです。手足の延長としてのMS、というのはビジュアル的にも説得力があると思いました。ふっと思いついたアイデアというよりは、ふつふつと湧いてきたアイデアが、なんとなくうまく合わさっていった、という感じですね。


――機体としての面白さと、キャラクターとしての面白さが、うまくミックスした、と。


太田垣:物語で要求するものが、キャラクター・メカの設定のどちらも自分でコントロールできたので。わりと純度の高いものになったかなと思います。


――漫画だからこそ生まれた良さだと?


太田垣:そうですね。サンライズさんにいきなりこの企画書通しても、なかなかOKは出ないだろうと思います。


松尾:まず、装備減らしませんか、と。付けすぎですよ(笑)


太田垣:デザイン的には、カッコイイものではないと思っているんですよ。不格好ですし、ぶざまなものだと思っています。でも、戦場ではあるものでとにかく戦い抜かないといけない。現場で生き抜くためにとりつけた、極地の感じは出たと思います。デザイナーが洗練したラインでつくったものではないので。そういう自分の無骨さが活きたと思っています。


後編へ続く※7月3日公開予定

『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』

6月25日(土)よりイベント上映&配信&Blu-ray劇場先行販売同時スタート

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