香川の恩師・クロップ監督率いるリバプール 来季プレミアで旋風を起こすか?

自分が大事にしているものを、同じように大事してくれる相手を、人は嫌いになれない。

子煩悩な上司は、我が子を褒めてくれた部下を悪くは思わない。愛猫家は、愛猫家に親近の情を寄せる。

現在プレミアリーグのリバプールを率いるドイツ人監督に、日本の多くのサッカーファンが好感を抱くのも、そんな心理によるのかもしれない。

ユルゲン・クロップは、我らが香川真司を、我々と同じように、愛してくれた。


2010年、ドイツ・ブンデスリーガ1部のドルトムントで3シーズン目を迎えたクロップ監督は、セレッソ大阪から、21歳の香川真司を獲得。

前半戦で全17試合に先発し、8ゴールを記録。羽ばたくような活躍を見せる香川を、クロップは我が子にタオルをかける父親のように手荒く、愛情深く育てた。

チームのリーグ2連覇に貢献した香川は、12年度からプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに移籍するわけであるが、プレミアファンの知人に言わせれば、香川がマンU時代に残した最大のインパクトはアダルトチャット報道だそうだ。移籍1年目のファーガソン監督時代は、やや低迷。2年目のモイーズ監督時代は、まるで睡眠薬を盛られたようで、3年目のファン・ハール監督時代にいたっては、シーズン開幕直後に構想外の通告――

「アメリカでのプレシーズン遠征で彼を守備的MFの位置で試したが、彼は私の望みと哲学を満たさなかった」(ファン・ハール前監督)――、自宅のベッドに括り付けられたも同然だった。


そんな香川のサッカーキャリアに緊急手術を施したのが、クロップ率いるドルトムントだった。2014年9月に届いた「ドルトムント復帰」の知らせに、多くのファンがクロップの温かい人間性、香川への愛情を読み取ったはずだ。

遠く離れた日本にいても伝わってくる人間味、選手への愛情こそが、指導者ユルゲン・クロップの美点の一つである。

古巣復帰後の香川は、第3節フライブルグ戦で1ゴール1アシストを記録するも、その後先発を外れるなど低迷した。しかし2016年4月現在――、日本サッカーの至宝はふたたび光芒を宿しつつある。

今、ドルトムントにクロップの姿はない。ゲッツェとレヴァンドフスキを失い、大黒柱のロイスの負傷離脱もあった14-15シーズン。ポカール決勝でボルフスブルクに敗れた2015年5月20日、クロップとドルトムントとの蜜月は終わりを告げた。

そして、同年10月、クロップはドーバー海峡を渡った。


2016年4月23日、プレミアリーグ第35節。リバプールは本拠地アンフィールドにニューカッスルを迎えた。

前節、アンフィールドの1キロ先に本拠地を構えるエヴァートンとの「マージーサイド・ダービー」で圧勝、勢いに乗っているリバプール。

指揮官は、昨年10月に成績不振のブレンダン・ロジャースの後を引き継いだ、クラブ史上3人目の外国人指揮官、ユルゲン・クロップである。

対するニューカッスルの監督は、2005年にリバプールを就任1年目でチャンピオンズ・リーグ優勝に導いたラファエル・ベニテス。おそらくリバプールのサポーターの間では、イエス・キリスト、スティーブン・ジェラードに並ぶ聖人の一人だ。

試合は、スタリッジのリーグ戦4試合連続となるゴールでリバプールが先制。その後追加点で2点をリードするも、後半追い上げられて2-2の同点で終幕した。

この時点で、ニューカッスルは19位。しかし残留ラインとなる17位のノリッジまではたったの勝ち点「2」差であり、まだ土俵際でのうっちゃりを狙える。一方のリバプールは残り3試合で7位(勝ち点55)となっている。


リーグ優勝は往々にして難産である。難産に耐えるには、体力が要る。体力を付けるには、時間が掛かる――クロップがドルトムントの監督に就任した2008年、クラブの成績は6位、2009年は5位。ようやくリーグ優勝を遂げたのは、3年目の2010年だった。

リバプール側がクロップへ与えている非公式の猶予期間は、おそらく3年あたりだろう。

しかし、クロップ自身が「この数カ月では最高の状態にある」と言うように、ヨーロッパリーグ準々決勝で古巣ドルトムントから劇的な逆転勝利を挙げ、マージーダービーでも圧勝するなど、来季に向けて明るい材料がつぎつぎと出ている。

悲願の復権は、意外と早いかもしれない。

自分が大事にしているものを、同じように大事してくれる相手を、人は嫌いになれない。

クラブのサポーターは、クラブを愛してくれる指導者を悪くは思わない。かつて、その人間性、人心掌握術で、同じく島国の日本のサッカーファンを虜にした彼ならば、リバプールでも必ずや、選手、サポーターに受け入れられるだろう。

もしかしたら3年目を待たずに、来季のプレミアで旋風を巻き起こすのは、“我らが”クロップのリバプールかもしれない。

(文・タラマサタカ/スポーツライター)

続きを見る

0コメント

  • 1000 / 1000