RHYMESTER宇多丸インタビュー【前編】 「スタイルウォーズなら大歓迎です」


5月15日に東京・お台場野外特設会場にて野外フェス『人間交差点 2016』を開催するヒップホップグループ・RHYMESTER。この“人間交差点”をテーマに、テレビやラジオでも活躍する宇多丸に2回にわたって話を聞いた。


■スクランブル交差点こそ人間文化の最高峰

ーーRHYMESTERは5月に東京・お台場野外特設会場で野外フェス『人間交差点 2016』の第2回目を開催しますね。今回は“人間交差点”をテーマにいろいろとお話を伺いたいと思います。


よろしくお願いします。


ーーRHYMESTERは昨年「人間交差点」というシングルをリリースされましたね。


はい。フェスのテーマの曲ですね。

ーーこの曲ができた経緯を教えてください。


RHYMESTERのメンバーやスタッフとフェスのタイトルを決めるなかで、半ば冗談みたいな感じで“人間交差点”というワードが出てきたんです。「……ナシだよね?」みたいなノリで(笑)。でもよくよく考えると結構良い感じだから、一応同名マンガを描かれている弘兼憲史先生に許可を取ってみたんですよ。そしたらOKが出て。「人間交差点」という名前のフェスをやるんだったら曲を作ろうかって話になったんですよ。


ーーこのシングルがリリースされた際のインタビューで宇多丸さんが「スクランブル交差点こそ人間の文化の最高峰」と言っていて、それにすごく感動したんですよ。


そう言えばそんなこと言ってたね(笑)。今思い出すと確かにうまいこと言えてると思いますよ。スクランブル交差点には最小限の決まりごとしかなくて、そこではみんなが当たり前のように自然と譲り合いながらもちゃんとそれぞれの目的を果たしている。ならばそれを人生の大きな意味でできないんだ?ってね。


ーー最近僕や僕の友人なんかは、なんだか日常生活がギスギスしてるような気がしてて、そういう時にこの「人間交差点」の話をするとみんなすごく納得してくれます(笑)。


当時はシングルの後にアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』の発表も控えてて、そのアルバムでやろうとしてたことと“人間交差点”から想起されるものが合致したんです。本当に“人間交差点”というタイトルありき。発想ってどっから降ってくるかわからないなって思いましたね。


■ライムスのアルバムはいつも賛否両論

ーーアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』のテーマは「美しく生きる」というものでした。リリースから約1年経過してこのアルバムのテーマが理解されたと思いますか?


僕ら自身はすごくいいものを作れたと思ってるけど、今となってはちょっと難しかったかな、とも思っています。万人が一発で理解できるような作品ではなかったかなという。だって作った僕らがアルバムの取材で質問に「う〜ん」って考え込んじゃうことも多かったから(笑)。

なのでアルバムリリース後のツアーでは映像などの演出を工夫して、曲全体のストーリーがもっとダイレクトに伝わるように構成しました。そしたら「ライブ観てアルバムを好きになりました」って人が多くなりましたね。ライブBru-ray / DVD『KING OF STAGE VOL. 12 Bitter, Sweet & Beautiful Release Tour 2015』もあるのでぜひ(笑)。『Bitter, Sweet〜』がよりわかるようになります。

ーー『Bitter, Sweet〜』のどういった部分が理解しづらかったと思いますか?


『Bitter, Sweet〜』に一番近い僕らの作品は、2004年に発表した『グレイゾーン』なんだよね。あのアルバムのテーマはまさに“グレイゾーン”で、出した直後は賛否両論だったんですよ。やっぱり世の中は黒白はっきりしてたほうがわかりやすくウケるんですよ。伝わりにくことを伝える難しさを痛感しました。まあ僕らのアルバムは毎回発表直後は賛否両論で、毎回ファンの半分が脱落しちゃうっていうのはあるんだけど……


ーーそうなんですか?


その脱落したファンの半分は1年後くらいに「最初から好きでした」って顔して平気で帰ってくるんだけど(笑)。冗談はさておき、こちらもキャッチーな内容じゃないことは織り込み済みだから、『Bitter, Sweet〜』は徐々に好きになれる作品だと思ってますね。


■世界で同時多発的に生まれているグレイな作品たち

ーーアルバムのテーマはどういったところから出てきたのでしょう?


立場や思想の埋められない違いによるヘイトのぶつかり合いは、世界的にみんなが小さくも大きくも直面している問題だから、僕らの目も自然とそこに向いたんじゃないかな。『Bitter, Sweet〜』は、「世の中にはいろんな人がいるけど、うまくやっていくにはどうしたらいいか?」という問いに対して「美しく生きる」という僕らなりのアンサーを提示した作品なんです。で、この「世の中にはいろんな人がいて〜」というタイプの作品は、いま世界中で同時多発的に作られてると思います。


ーー例えば?


ちょっと違うけどタランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』はそういう作品じゃないかな? 『ヘイトフル・エイト』では人種差別問題がすごく大きなテーマとして扱われているんだけど、前作『ジャンゴ』のように「人種差別主義者をブッ殺せ」っていう勧善懲悪的な明快さがないんです。人種差別をしてる側が人としてはちょっと憎めなかったりするいっぽう、人種差別されてる側の復讐がエグすぎだったりとか。それぞれの事情もちゃんと描かれてるから、関係性が全然単純じゃないなく、結論はグレイなんですよね。あと『ジャンゴ』はタランティーノ史上最高収益だけど『ヘイトフル・エイト』はそうでもないという。これが何をか言わんや。


ーーなるほど。


つまり、スクランブル交差点は社会の縮図としては人間の文化の最高峰と言えるんだけど、人種や宗教、国、地域といった個別に違うルールが存在する場面ではいろいろと問題が出てきてしまうんですよ。『Bitter, Sweet〜』はそういうことを描いた作品でもあるんです。


■ルールは最低限であるべき

ーー僕は「美しく生きる」ために必要なのは、小さな善意の積み重ねだと思うんです。


ああ、なるほど……。そもそも交差点には「赤信号は渡らない。青信号は渡りましょう」みたいな大枠があって、それにみんなが合意するからうまく回るわけですよ。でも、極端な話、青が止まれの国だってあるかもしれないでしょ?


ーーどういうことですか?


つまり信号は暗黙のルールを示す記号でしかないんですよ。昔、銀座の数寄屋橋交差点で変なおじさんが「信号機に従うやつはバカだ」とか怒鳴りながら赤信号なのに横断歩道をバンバン渡ってるのを見たことがあって。その時に思ったんです。僕らは信号に従ってるんじゃなくて、世の中をうまく回すための暗黙のルールに従ってるだけなんだって。


ーーでは、交差点の理論でいくと「道で人とぶつかったら謝る」みたいなことはルールですか?


それはルールというより知恵なんですよ。ルールというのはさっきも言ったもっと大きな枠のこと。だから最低限であるべきで、「道で人とぶつかったら〜」みたいな問題はそういう知恵で対処していくのがスマートに生きていけると思うんです。


ーーなるほど、アルバム収録曲「Kids In The Park」で歌ってる「ないてるこがいたらなぐさめる」みたいなことですね。


そうそう。決まりごとを細かくしたところで、交差点は別にスムーズにならないでしょ? 相手とすれ違う時は必ず相手の右を通りなさいとかさ。絶対こんがらがっちゃうし(笑)。しかも、道で人とぶつかって謝るのって文字通りの謝罪ではなく「こっちに敵意はない」という意思表示に近いじゃん。所詮はお互い通り過ぎるだけの間柄なんだから、お互いいいとこで止めときましょうって。

ーーそれこそ知恵ですよね。無駄に争ってもしょうがないっていう。そうなってくると善意ですらないですね。


うん、そういうこと。こうやって考えると交差点のメタファーって面白いね(笑)。


ーーでは「美しく生きる」こととは……。


知恵です。僕らの曲にもあるけど「K.U.F.U.」ですよ。


■今さら日本に絶望なんかしない

ーー宇多丸さんは今の日本に知恵があると思いますか? 僕はその知恵のなさが、積もり積もって安保法案改定や原発など政治のどんずまり感につながったのではないかと思っています。


……どうだろうな。今例に出された2つを交差点に例えると、大枠のルールをうやむやのうちに変えられたり、なかったことにしようとされたりしてるってことなんですよ。安保法案改定の件はルールそのものを勝手に変えられようとしてるわけです。ルールはみんなの合意の上で成り立ってるから、それを変えるならみんなの合意が必要なんです。


ーー原発問題に関してはどうですか?


あれは、うまくいかなったからルールを見直そうって話だったのに、いつの間にかうまくいかなかったことをなかったことにされようとしてることなんです。仮にこっちが百歩譲って、安保法案改定問題もエネルギー政策も変えざるを得ないんだとしても、それは国民投票物件でしょうっていう。


ーー選択できないから「The Choice Is Yours」ですらない(笑)。


そうそう。

ーーそんな状態でも自民党の支持率が低くないのはなぜだと思いますか?


それは元から日本がこういう国だからだと思うよ。二大政党制ってアリかな?みたいな状態が日本では異質なだけで、大昔からこの国では「お上」が仕切っていて、大多数の国民は「細かいことはよくわからないし他の政党はもっと頼りにならなそうだから」となんとなく現状維持で自民党を支持するという。だからここ最近の状況がおかしいということではないと思う。そもそも万々歳に受け入れられる政党や政治家なんかいないんだよ。それが民主主義なんだからさ。


ーー納得がいくようないかないような……


僕だってそれがいいとは思ってませんよ。でもこういう風にでも思わないと憤死しちゃうから、そう思ってるだけで。もしかしたら自民党や官僚の中にも僕と同じく、いやそれ以上に絶望している人間がいるかもしれない。そういう人は「二大政党制とか言ってるけど、日本にはそんな民度ないから優秀な俺らに任せておいて」って思ってるんじゃないかな。でもこっちの言い分としては「結局全然できてないわけじゃん」ってことなんだよね。『マネー・ショート』っていう映画みたいな感じというか。


ーーリーマンショックの裏側を描いた映画ですね。


うん、そう。「システムってもうちょっとマシなものだと思ってた。でも実際は思ってた以上にダメだった。システムを回してる人間もシステムそのもののことをよくわかってなくて、想像を超えるアホだった」ってのがリーマンショックに至る中で判明しちゃって。それに近いよ。だから今更日本に絶望なんてしないしない(笑)。


■そっちがやる気ならやるぞ

ーーアルバム『Bitter, Sweet〜』で「マイクロフォン」をラストトラックにしたのはなぜですか? 最初アルバムを聴いていて「Beautiful」「人間交差点」と来て、美しい「サイレント・ナイト」で終わりだと思っていたので、とてもびっくりしたんです。


落ち込んで終わるようなアルバムにはしたくなかったんですよ。「やってやろうじゃないの」っていう感じで終わりたかったんです。いろんな意見や立場の対立があってヘイトが溢れてるそんな世の中ってのを歌った後に、「俺らは意見の対立が悪いと言ってるわけじゃないぜ」「そっちがやる気ならやるぞ」っていう感じですね。「マイクロフォン」の「花咲け / スタイルとスタイルのウォーズ」っていう歌詞のはそういうこと。スタイルウォーズなら大歓迎ですっていう。


ーーこの曲を聴いてるとすごく勇気が出ます。


いま僕らは新作のレコーディングしてて第一弾はこの「マイクロフォン」を受けての次の1曲目、という感じになります。楽しみにしててくださいね。


取材・文 / 宮崎敬太


AbemaTV「ライムスター宇多丸の水曜The NIGHT」

25:00〜27:00(毎週水曜25:00〜27:00)

出演:宇多丸(RHYMESTER) / サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)

RHYMESTER主催野外フェス『人間交差点 2016』

2016年5月15日(日)東京都 お台場野外特設会場

RHYMESTER / OZROSAURUS / KOHH / ゴスペラーズ / サイプレス上野とロベルト吉野 / さかいゆう / MONGOL800 / 三浦大知 / RIP SLYME / lecca

OPENING ACT:Creepy Nuts、SUPER SONICS、SEX山口(五十音順)

続きを見る

0コメント

  • 1000 / 1000