N.W.Aの真実をbmr編集長・丸屋九兵衛が徹底解説 「ストレイト・アウタ・コンプトンで描かれなかった人達をちゃんと見て」

4月2日(土)より映画『N.W.A & EAZY-E:キングズ・オブ・コンプトン』が公開。同作は、大ヒット映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の題材となったLAの伝説的ヒップホップグループ「N.W.A」の真実に迫ったドキュメンタリー作品だ。

公開初日には、字幕監修を務めた「bmr」編集長、丸屋九兵衛(まるやきゅうべえ)氏のトークショーが渋谷のヒューマントラストシネマにて開催され、知られざるN.W.Aの裏話から、最新の「N.W.A腐女子」事情に至るまで、特濃のトークが展開された。


■N.W.Aの真実が日陰者たちの証言で明らかに! 


この映画に関して私が書いたコメントがあります。「あの大ヒット映画では見えなかった真実」と。「あの大ヒット映画」ってなんのことか分かりますよね?『ストレイト・アウタ・コンプトン』です。で、私はさらに「見えなかった真実が関係者たち(日陰者系)による証言で明らかになる」とコメントを残してるんです。 


ーー「日陰者」というのは、どういうニュアンスなんでしょうか? 


「日陰者」というのは、本家「ストレイト・アウタ・コンプトン」における扱いのことなんですけども、2種類います。その1が「悪者」。つまり「ストレイト・アウタ・コンプトン」で、明らかな悪者として描かれていた人物が3人。……まあ2.5人くらいいるんですよね。


■日陰者その1:ロンゾ・ウィリアムズ/Lonzo Williams

 ~ワールド・クラス・レッキン・クルーのリーダー~ 


まずはロンゾ・ウィリアムズ。映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』だと、クラブのオーナーにしか見えなかったんですが、実はワールド・クラス・レッキン・クルー(World Class Wreckin' Cru)、略して「WCWC」というグループを率いていたリーダー。DJ/プロデューサーでもあり、実はアーティストだったんですね。その辺りが全く描かれないまま、「ドクター・ドレー(※Dr. Dre:N.W.Aの初期メンバー。91年脱退)の音楽性に理解のない頑固なおじさん」としか見えてなかった。その人が出てきて、ちゃんと色んな証言をしてくれる。ワールド・クラス・レッキン・クルーという西海岸のヒップホップを聴いてきた人間にとっては有名なグループも、なぜか『ストレイト・アウタ・コンプトン』では、一度も言及されない。あれだけ見てると「単なるクラブのオーナーのおっちゃんにしか見えへん」というのが可哀想なところなんですよ。

World Class Wreckin Cru - Surgery 


■日陰者その2:ジェリー・ヘラー/Jerry Heller 

~N.W.Aの悪徳(?)マネージャー~ 


あと、N.W.A(のマネージャー)をやっていたジェリー・ヘラーね。これも本物が出てきて語ってくれるんです。私、人間の顔面にうるさいもんで一応言わせてもらいますと、「ストレイト・アウタ・コンプトン」におけるジェリー・ヘラーが、まあ似てないんだコレが。


 ーー「似てる/似てない」というのは重要なポイントなのでしょうか? 


ライムスターの宇多丸先生は「ジェリー・ヘラーの顔なんてどうでもいいだろ!」って言うんですけど、私はダメなんですよ! やっぱり「丸い」「四角い」「長い」という顔の輪郭ですとか、「目が細い」とか「口がデカい」とか、そういったパーツをちゃん合わせた役者を選んで欲しい、と。『ストレイト・アウタ・コンプトン』のジェリー・ヘラーって、随分「太短い」感じなんです。今から観ていただければ分かりますが、実物は結構目が細くて厳しい感じの顔してるんです。で、このジェリー・ヘラーさんが出てくるシーンが何度かあるんですが、後ろに本棚が映ってるんですね。「なんでや?」と思ったら、これ書店イベントなんです。


 ーー現地でも書店イベントをやるというのが驚きですね。 


「ジェリー・ヘラー先生が書店イベントやってる!」って。なんだか「下北沢B&B」のような光景が展開されるのはビックリなんですけど、2006年ごろに「ルースレス~その思い出(Ruthless: A Memoir)」みたいな本を出したんで、その時のイベントなんじゃないかと。


 ■日陰者その3:シュグ・ナイト/Suge Knight 

~伝説的レーベル「デス・ロウ・レコード/Death Row Records」の極悪オーナー~

 

そしてもちろん、悪役といえばシュグ様ですね。なぜか私が「様」を付けてしまうシュグ・ナイトです。この作品では、さほど暴走ぶりが出てこないんですけど、再注目しておきたいかな。この人はドレーを貶めるのが趣味みたいなものです。ドレーがレーベルを離れてから、「あいつはTシャツの下にセーターを着てるんだ。それであんなに筋肉モリモリに見せてるけど、実はそんな奴なんだぜ」とか言ったりだとか。


ーー中学生のようなことを言いますね。 


ひどいでしょ? あとはさっきも言いましたが、デスロウを抜けたスヌープ(※Snoop Dogg:LA出身の大物ラッパー。デス・ロウと契約していたが脱退 )の住所をバラす映像をバラ撒いたり。スヌープとか2PAC(※2PAC:シュグ・ナイトに保釈金を用立ててもらったことをきっかけにデスロウ加入。96年没)のニセモノをリリースしたり、ドレーのアルバムを妨害したり。ドレーがデス・ロウを抜けてからのシュグ様の暴走ぶりは素晴らしい。その片鱗がちょっとでも分かれば良いかなという気がしますね。 

あと、ドクター・ドレーが「コンプトン」の前に出したアルバムは『2001』ってタイトルなんですけど、あれは本来『2000』だったんですよね。でも、ドレーが『2000』というアルバムを出すことを嗅ぎつけた瞬間、シュグ様が先に「クロニック2000/CHRONIC 2000」というアルバムをデス・ロウから出してしまった。それでドレーはタイトルを「2001」に変えざるを得なかったというね。曲の中でも「トゥ・サウザンド!」って言ったあとに、別の人の声が「ワンワンワン…」って入ってるトラックがありますから。「ああ、苦労したんだなあドレー」って。


 ーー「ワンワンワン…」ってのは誰の声なんでしょうか? 


多分KRS-ONE(※KRS-ONE:NYの大御所ラッパー。社会派として知られる。通称「Teacha(先生)」)だと思います。だからお金かかってるんですよ。シュグからのダメージをリカバーするためにドレーがお金を使うという不条理! もうひどいでしょう? まあそんな暴れん坊、「西海岸の赤い彗星(※シュグ・ナイトは赤をシンボルカラーとするギャング「ブラッズ」の出身だと言われている)と呼ばれたシュグ・ナイトがどれだけの人物か、観てやって欲しいですね。


 ■日陰者その4:アラビアン・プリンス/Arabian Prince 

~いなかったことになっている(?)初期メンバー~ 


「日陰者」の定義その2。それは『ストレイト・アウタ・コンプトン』では触れられもしなかった人。このカテゴリーに収まるのは、なんと言ってもアラビアン・プリンスです。 


ーー『ストレイト・アウタ・コンプトン』には出てませんよね。 


アラビアン・プリンスの「ア」の字も出て来なかったでしょ? でも、アルバムの方の『ストレイト・アウタ・コンプトン』のジャケットを見てもらえば分かるんですけど。「人って下から見上げると人相がわからないもんだなあ……」ってことが良く分かるジャケットですが、あそこにはちゃんといるんですよ。あのアルバムだと「Something 2 Dance」っていう、最後に唐突に入っているダンサブルなエレクトロ曲を仕切ってます。それ以外にもN.W.A名義では初のシングルになるのかな?「Panic Zone」でも、けっこうイニシアチブを握ってたりして。

それ以外にも、J.J.ファッド(※J.J. Fad:80年代に活躍した3人組女性ラップグループ)の「Supersonic」ってヒット曲をプロデュースしたりして。つまりエレクトロな人なんですね。今で言うエレクトロではなくて、“LA弁”で言うところの「テクノホップ」ね。つまりちょっと前の時代に当たる音楽性を代表する人。だからこそ、後のN.W.Aで要らなくなっちゃったんだなという気はするんですけど。ここでの証言映像は割と新しいものであるにも関わらず、かなり若々しくハツラツとした姿を見せていて、恨みがましいことを言うでもなくニュートラルな証言をする人格者ぶりはなかなかですね。

J.J. Fad - Supersonic 


■日陰者その5:スティーブ・ヤノ/Steve Yano 

~N.W.A結成に貢献した「南カリフォルニアで最も危険なレコード屋」~ 


そして絶対に言及しておきたいのがスティーブ・ヤノさんです。日系アメリカ人で、通称「南カリフォルニアで最も危険なレコード屋」。N.W.Aとかを聴いていると「どこそこで最も危険な何とか」みたいなことを絶対言いたくなるんです。「ニュージャージーで最も危険なストレートパーマ屋」とか。これはジョージ・クリントン(※George Clinton:Pファンクの創始者。パーラメント、ファンカデリックなどのファンクバンドを率いる)のことなんですけど。 

で、「南カリフォルニアで最も危険なレコード屋」。何が危険かというと、まだ出ていないはずのレコードが買える。まあ法的に危険なだけなんだけど、そのスティーブ・ヤノさんがやってたレコード店、まあレコード店と言ってもフリーマーケットに出してるブースなんですけど、そこを介して連絡を取るようになったのがドクター・ドレーとイージー・E(※Eazy-E/イージー・イー:ラッパー。N.W.Aの中心人物で、レーベル「Ruthless Records/ルースレス・レコーズ」を設立した。95年没。)だったんです。 

で、どうやらイージーはドラッグディーラーから転職してレコード屋さんになりたかったらしいんです。かわいいエピソードだなと。ここら辺は色んな矛盾する証言があるんですけど、彼はラップをやるつもりがなかった。「家のガレージでラップをしていた」とか「ラップを学んだことがある」とか諸説あるんですけどね。とにかく「ドラッグディーラーから足を洗いながら、勃興目覚ましいLAのヒップホップ界でお金を儲ける手段がないかな」と思った。それで「昔の知り合いのドクター・ドレー、アイツ才能あるや~ん」って。ドレーとは中学校かなんかが一緒だったんですよ。だけど、連絡先がわからなかった。それでヤノさんに紹介してもらったというのが実情らしいんです。 

一方、ドクター・ドレーは、自分の音楽性への理解がないロンゾ・ウィリアムズに嫌気が差して、ヤノさんに「レーベル作りませんか?」という話を持ちかけた。その2人の野望が全く違う形で成就したのが、N.W.A.とそのレーベルであるルースレス・レコード(Ruthless Records)なんです。 

実は、このヤノさん、最初は「僕がレーベルやるのはどうかな……」なんて言ってたんですが、N.W.Aの成功を見て「レーベル、けっこう良いかも」と思ったんでしょう。「スキャンレス(SKANLESS)」というレーベルを立ち上げて、DJクイック(DJ QUIK)一派のハイシー(Hi-C)というラッパーを送り出したりも。このHi-Cは映画「CB4」で架空のラップグループ・CB4のラップパートに声を当てていた人です。まあそういう感じで、スティーブ・ヤノさんというのは、色々と巡り巡って随分功績のある人なんですよね。

CB4 - Straight Outta Locash 


ーーヤノさんは「頼れる親父」というポジショニングになってますね。 


このヤノさんは既に亡くなってるんですが、この映画には元気な頃の姿が出てきます。ちなみにヤノさんが亡くなった時、ドクター・ドレーが動揺してヤノ家に電話をかけてきたという美しいエピソードも残ってます。 


 ■日陰者その6:キム・ワンジュン(Wan Joon Kim) 

~もう1人のアジア系キーマン~ 


あと、この映画には出てこないんだけど、もう1人のアジア系の理解者として、キム・ワンジュンさんという人がいます。この人は「サイカデリック・レコーズ(Cycadelic Records )」というコンプトンのレコード屋さんをやっている韓国系アメリカ人です。この間、彼の息子さんと会いました。そもそもN.W.A結成のきっかけになったのって、ドクター・ドレーが間抜けにも駐車違反かなんかの罰金を滞納してたがために刑務所に入ってしまい、その保釈金をイージー・Eが出してあげることから始まるんですけれども、このキム・ワンジュンさんは、イージー・Eの保釈金を出してあげたことがある。 


 ーーお~!(驚) 


だからN.W.Aって、色んな意味でアジア系に支えられてたんだよ。まあキム・ワンジュンさんは、この映画には出てこないんですけどね(笑) 


 ■日陰者その7:サー・ジンクス/Sir Jinx 

~家出したドレーの居候先の息子~ 


あと『ストレイト・アウタ・コンプトン』に出てきたんだけど、注目されてない人もいる。やっぱり、サー・ジンクスかな。ドクター・ドレーの従兄弟で、アイス・キューブ(※Ice Cube:NWAの初期メンバー)の家の近所に住んでた青年なんですよ。『ストレイト・アウタ・コンプトン』だと、最初の方でドレーがママにビンタされて家出しちゃうでしょ? で、自立するのかなと思ったら、女房子ども付きで親戚の家に居候するという情けない展開になるんですが、その居候先の息子です。アイス・キューブがバス通学で帰ってきてから、レコードを抱えて行く先ですね。その家のメガネをかけてる青年がサー・ジンクスです。この映画では、ちゃんと証言してますよ。


 ■日陰者その8:ビッグ・チャン/Big Chan 

~イージー・Eとの美しい思い出を語るルースレスの女性ラッパー~ 


あとはビッグ・チャンという女性ラッパーも出てきます。この人はスヌープが一瞬だけデビューさせた「ドギーズ・エンジェルズ(Doggy's Angels )」のメンバー。あの『チャーリーズ・エンジェル(Charlie's Angels)』に訴えられて、名前が使えなくなってしまった可哀想なグループの人です。で、「ザ・エンジェルズ(Tha Angels)」って名前に変わっちゃったんですけど、そのリードをとっていた。彼女はルースレス時代の良い思い出、特に「イージーは素晴らしい人だ」というようなことを、散々アピールしてくれます。

Doggy's Angels On Rap City Freestyle 



■『N.W.A & EAZY-E:キングズ・オブ・コンプトン』について思うこと 


この作品はドキュメンタリーで、本人たちの証言が詰まっているんですけど、ところどころに再現映像みたいなのが入ります。言っておきますが、正直言ってショボいです。ですが! 証言の部分がすごく大切なので、そこは見逃しておくれよ(笑) 


ーーちなみに再現映像の役者さんは似てらっしゃるんでしょうか? 


あんまり似てないです。ただ、あのサングラスさえかけておけば、イージー・Eには見えるから。サングラスさえ外さなければオッケー。サングラスの話で思い出したんですけども、「ストレイト・アウタ・コンプトン」でイージーを演じてたジェイソン・ミッチェル、彼は素晴らしい役者ですけど、いかんせん顔が似てないんですよね。イージーって、ライトスキンで目が大きくて、かわいい感じなんだけど、ジェイソン・ミッチェルって結構目が細くてダークスキンなんですよ。 

最近はね、凄いなあと思うんですけど、こういった西海岸ヒップホップ文化と腐女子文化が衝突して「N.W.A系腐女子」というのがいるんですよ。この中(※トークショーの会場)にも絶対にいるんですよ!「イージーとドレーの濡れ濡れパーティー」と聞いて、全然違うものを想像してる人がいるんですよ!「あの2人、痴話喧嘩で別れたんじゃない?」とか。イージーとシュグ・ナイトという邪悪なカップリングを考える人までいるので。ただそういった人たちには『ストレイト・アウタ・コンプトン』だと、イージーのかわいさが物足りないんじゃないか、と。だからこの映画で本物のイージーのクリクリッとしたキュートさを思う存分味わって欲しいなと思う今日この頃でございますね。


■ヒップホップ映画に字幕監修が必要な理由とは? 


あと、私はこの映画で字幕監修をやったんですが、「字幕監修って文字校正すればいいだけだろ?」って思ってる方もいらっしゃるかもしれません。けど実際には結構ツッコミどころがあるものなんですよ。昔、ヒップホップカルチャーのドキュメンタリーの字幕監修をやった時に、「We actually bombed train」ってセリフが「おれたち本当に列車を爆破したんだ」って訳されてたんですよね。「Bomb」って言うのは確かに「爆破する/爆弾」なんですが、ヒップホップカルチャーの文脈で言うと「グラフィティを描いた」って意味なんですよね。グラフィティが合法か違法かはともかくとして、それが突然爆破犯人にされてしまうという。やっぱりまだまだヒップホップカルチャーは理解されてないので、ツッコミが必要なんじゃないかと思うんですよね。

それと、この場で言うのはなんなんですが、元々N.W.Aは好きでしたが、ここ数ヶ月でN.W.Aの権威みたいになっちゃったんで、勢いに乗ってN.W.A本を出します! しかも「ストレイト・アウタ・コンプトン」のDVD/Blu-rayの発売に合わせて6月頭に出しますので、皆さんよろしくねということは申し上げておきましょう。 


ーーちなみに今回上映する映画も6/3にソフトがリリースされる予定です。 


もうバッチリ合わせて行くというね。カニエ・ウェストと50セントみたいなね。裏番組狙ってくという。WWE対WCWみたいな感じですからね!


■『N.W.A & EAZY-E:キングズ・オブ・コンプトン』の見どころ 


ーー最後になりますが本編の見どころを教えて下さい。 


繰り返しになりますが、日陰者たちが「ストレイト・アウタ・コンプトン」で描かれなかった、あるいはムチャクチャ悪者に描かれていたあんな人こんな人が、実際にはどんな顔をしていて、どんな発言をするのか。特に私はジェリー・ヘラーがそこまでの悪者だとは思っていないし、彼のビジネスマインドがなかったらN.W.Aもなかったし、たぶん皆さんもここにいないと思うので。書店イベントをやっちゃう実物のジェリー・ヘラーがどんな人なのか、そういうところをちゃんと観てほしいなと思います。


『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』は2016年4月2日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷にて2週間限定レイトショー

大阪:シネ・リーブル梅田/4月16日(土)より1週間限定レイトショー 

京都:立誠シネマプロジェクト/4月23日(土)より2週間限定 

福岡:KBCシネマ/4月30日(土)よりレイトショー 

愛知:センチュリーシネマ/5月14日(土)より1週間限定

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