「怖い」「サイコパス」「演技」誤解を受け苦悩する多重人格者と向き合うということ

 YouTubeに投稿された女性の動画。同じ人物だが、口調や雰囲気が次から次へと変わっていく。しかしこれはキャラクターを演じ分けているのではなく、人格が変わっているのだ。投稿者の箕浦あずささんは「解離性同一性障害」によって、70もの人格を持つ「多重人格」なのだ。


 精神科医の岡野憲一郎・京都大学大学院教授によると、心や体の一部が本体部分から離れてしまう解離性障害には、突然体の感覚や機能が止まったり、勝手に動いたりする「転換性障害」と、虐待や生命の危機など、幼少時の強いストレスや過酷な状況から本来の人格を守るために新しい人格が形成され、それらが切り替わる=多重人格の症状を示す「解離性同一性障害」があるという。

 岡野教授はこの多重人格について、マイクロバスのイメージを使って次のように説明する。


 「心の中というよりも頭の中に複数の人物が存在していて、主人格といわれる人が運転していて、中に何人かの乗客がいる状態だと考えられる。そしてそのうちの何人かは前を向いていて、主人格のことを見ているが、別の何人かは寝ていたり、よそ見を向いていたりというような状態だと考えられる」。

 アメリカの調査では100人に1人の割合で存在しているといい、決して少ない数ではないものの、攻撃性や自傷傾向を有することもあり、映画や小説などに登場する人物たちのイメージからか、「都市伝説」「怖い」「サイコパス」といったイメージを持つ人も多いようだ。そのため、当事者たちは自身のことをなかなか周りに理解してもらえず、悩みを抱えているのだ。


 17日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、解離性同一性障害を抱えた当事者に話を聞いた。


■幼少時の虐待が原因で4つの人格に

 「この障害を多くの人にきちんと知ってもらいたい」。そんな思いから取材に応じてくれた江戸川華歩さんが解離性同一性障害と診断されたのは5年ほど前のこと。医師によると、原因は幼少期に体験した母親による虐待といじめだという。大人になってから受けたカウンセリングによって、当時の記憶がある程度よみがえってきたのだという。「肉体的な暴力を受けていたのはどちらかというと妹の方。正座させられて怒鳴られているのを救ってあげたいって思いがすごく強くて。何とかしなきゃって思うけど何もできなくて、精神的に追いつめていた感じ」。その過程で自らの精神を守るため、"虐待を受けているのは自分ではない"と別人格が作られたと考えられている。


 江戸川さんが本来の人格以外に抱える人格は3人。7歳くらいの女の子「すずちゃん」と、自由奔放な性格の女の子「おちび」、そして真面目でなんでもできる大人の女性「ポポちゃん」だ。「記憶の共有が全くできてなくて、それぞれがそれぞれの記憶で生きている感じ。私に戻った時に、他の人格の時の記憶は一切ない」。


 そう話している途中、突然気を失ってしまった江戸川さん。取材に同席していた幼馴染の男性は「今みたいに本当にフッと倒れちゃうので、立ってる時に出ると大変」と説明する。しばらくして目を覚ました江戸川さんは、先ほどとは雰囲気が全く異なり、「ママいつ帰ってくる?」「(妹を)助けに行かなきゃ、助けに行かなきゃ」と、子どものような口調になり、泣き出してしまった。これが幼少期に虐待を受けていた事を記憶している「すずちゃん」の人格だ。

 「負荷がかかって、無理をしたときに別の人になるという感覚がある。変なことを言っちゃった時、自分がうっかりしていて言っちゃったのか、私じゃない人が発言をしたのかが分からなくて、"何でだろう、私が言ったわけじゃないのにな"と思うことが多かった」。


 17歳の時に病院を訪れたが、病名は分からなかったという。そして24歳の時、解離性障害の症状をまとめたチェックリストを元に、解離性障害と診断された。思い当たる原因はあるが、あまり向き合いすぎると具合が悪くなってしまうので、あまり話さないようにしているのだという。

 Tokinさんが「他の人格のときにはこのタッチでは描けない」という漫画で伝えたいのは、他の当事者やその家族に、"自分だけじゃないんだ"と感じてほしいことだという。「精神科に通い始めてからずっと"私はだめだ、治さなきゃ"と頑張って、苦しかった。でも、治すために遮二無二なって苦しくなるよりは、今の状態で悪化しないくらいにまあまあうまくやっていけばいいかなという感じ」。


 そんなTokinさんの思いを象徴するように、この漫画のあとがきには、こう書かれている。「生きるのは大変なことです。楽しいこともあるけれど、つらいことも本当に多いです。死なないでいる。それを続けられているあなたは、とてもすごいんです」。

 Tokinさんの漫画にも登場する岡野教授は「何人かの人格が、お互いに協力し、人生を歩んでいけばそれも一つの回復の仕方だし、解離性同一性障害は一つの才能とも考えることもできる」と指摘する。「別の人格が現れた時、その人格と出会うこと、そしてその人を認めること。"フリをしている"と言われたり、一人の人格として認めてもらえないことを不満に思ったりしている。だから、その人格に真正面から対応することが必要」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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