彼氏の会社に干渉するための“メンヘラ”起業も、活性化する「学生起業」とそのメリット

 今年、政府はスタートアップ支援プロジェクト「J-Startup」を始動した。また、11月には、最新技術やサービスなどの新ビジネスが集まった「TechCrunch Tokyo 2018」が開催されるなど、新しい産業づくりの動きが加速している。中でも今、熱い視線が注がれているのが、起業する学生たちだ。


 ウィルフが運営しているのは、現役学生を対象に会社を起こすためのノウハウを教える起業スクール。学生たちは経営のイロハを学んだあとに、事業プランを模索。先輩経営者から助言をもらいつつ、実際に事業を展開していく。収益はランキングで公表され、その後反省点を踏まえた上で、再度新たなプランを立てて事業を展開。こうして、現実に即したビジネスを経験することができる。

 大学で勉強しつつ、起業スキルも学ぶ。そのメリットについて、ウィルフの黒石健太郎社長は「自分が本当に何をしたいかは、就職活動で考えてもやったことがないから判断ができない。実際に経験することで、起業したいのか就職したいのか、どっちの選択肢が最適かをリアルに意思決定できる。最終的に上場した起業家のプロフィールを見ると、在学中に(起業の)経験を積んでいる人が多い」と話す。


 黒石氏によると、ミクシィの笠原健治氏やグノシーの福島良典氏など、マザーズ上場企業のうち時価総額トップ30に入る創業者の3人に1人が学生で起業しているという。

 実際に起業スクールに通う学生たちからは、「社会に対して大きな影響を与えるようになれば、夢に近づくのではと。その1つとして起業を考えた」「将来自分で考えた事業で収益を得たいという目的がある」「今のままの大学生活ではいけない。でっかいこと、起業がやりたい」という声があがる。


■起業のきっかけは「彼氏の会社に干渉したい」

 社会人へのスタートアップ支援を行っているガイアックスも、今年から学生の起業を支えるプロジェクトを発足した。アイディアを募り、実際に学生社長も誕生させている。岡田健太郎執行役は「新卒の学生が我々の会社に入って、活躍しているのが実感値としてある。そこを見ていくと、学生の方でも社会人に近いくらい優秀な方がいっぱいいるんじゃないかと。今年に入って3社、我々が出資する、学生が代表の会社が出てきている」と話す。

 そのうちの1社が、現役の農大学生が運営するシェアグリ。「100年変わらない農業の現場を変えたい」という思いから、人材不足を補う農業用のシェアリングサービスを展開している。身近な社会の問題に寄り添った事業に特化するのも、学生ならではの発想だ。


 そして、その究極ともいえる会社がメンヘラテクノロジー。精神的に不安定な状態に陥った人を表す「メンヘラ」と、最新技術を意味する「テクノロジー」。果たしてどのような事業内容なのか。

 社長を務めるのは、東京工業大学大学院生の高桑蘭佳さん。高桑さんの研究テーマは「彼氏束縛AI」で、自他ともに認める彼氏依存のメンヘラだという。会社を立ち上げた狙いについて高桑さんは「彼氏を独占したい気持ちがすごく強いので」と説明。彼氏が会社の経営者であることから「彼氏の会社にも干渉したい。彼氏の会社の役員になればいいと思いついた」といい、そのことを彼に直訴したところ「何の実績もないし社会人でもないし、彼女という理由だけで役員にしたら会社の人はどう思う?」と却下。納得はしたそうだが、「でもやっぱり役員にしてほしいと思って。会社を作って事業を立ち上げます!というのが起業のきっかけ」と話した。その高桑さんの思いに彼氏は「そこまでの熱意すごいな、怖いなと思う(笑)」と語る。


 事業を成功させ、その経験をひっさげて彼氏の会社の経営に堂々と関わる――。熱い野望を胸に立ち上げられたメンヘラテクノロジー。


 そうした高桑さん自身の経験と、AI研究で培ったプログラミング技術を武器に立ち上げたのが、マッチングサービスアプリ「MM(ミリ)」。主な対象ユーザーは、就職活動中の内気な女子大生。興味のある業種をミリで選んでアクセスすると、登録された人の中から該当する業種の社会人との会食をセッティングしてくれる。

 開発の経緯について高桑さんは「自分が大学1、2年生の時に暇で、Twitterとかで友達が遊んでいるのを見ると『私暇だし辛いな』と。暇で病むというのを解決したいと思って、それが有意義な社会人との交流ならプラスの方向に解決できると思った」と話す。このアイディアに岡田氏は「高桑さんの話を聞いていると、『女性はタイミングによって普通の方でも精神が弱くなる。そういう時に少しメンヘラな状態になる』と。女性一般をターゲットにできるのかなと思った」という。


 人付き合いが苦手なメンヘラ女子でも気軽に交流の機会を持つことができると、「MM」は開設するなり反響を呼んだ。しかし、ネット上では「就活向けというより出会い系の雰囲気が出てるし、これは叩かれても仕方ない気がする」「女性が就活・就労の場面で多くのセクハラに苦しみ、時には命まで落としていることをどう考えているんだろう」という厳しい意見も。高桑さんはサービス発足の背景などを説明し、クリーンな事業であることをアピールしたが、「自分で感じている課題と、世の中のたくさんの人が感じている課題は必ずしも一致しない」という考えに至る。ガイアックスとの検証により、採算をとることが難しいという判断で、リリースから約1カ月でサービスを閉じることになった。


 ただ、高桑さんは「メンヘラテクノロジーという会社を作りましたという記事を出した時に“病んでいること、つらいことをどうにかしたい”というところに共感してくれる人がたくさんいた」と、心折れることなく次の事業案を考えている。26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、高桑さんをスタジオに招きさらに詳しく話を聞いた。


■高桑さんが考える次なる“メンヘラ”事業は

 そもそも、高桑さんは“メンヘラ”をどのように捉えているのか。「ネットスラングなのでちゃんとした定義はないが、病んでいたり辛かったり悲しい状態というのが、みんながなる1つのメンヘラな状態だと思う。もう1つ狭義だと、愛情に飢えていて、精神的に不安定な子。最近よく使われているのは後者なのかな」。高桑さん自身、出資先の会社に行った際にいきなり泣いてしまうことがあるという。


 国内外5000社のベンチャー支援に携わってきた、デロイト・トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長の斎藤祐馬氏は、高桑さんの起業理由に「比較的ベンチャーの社長は、社会に対して『こう変えたい』という思いを持っていることが多いが、すごく身近な視点の解決から始められているので珍しいパターン」と驚く。

 高桑さんが「MM」の次に考えている事業は「新しい愛情表現をするアプリ」と「喧嘩した時の仲裁アプリ」。「変更するかもしれないが、前者は歩いた分だけ好きな思いが伝えられるアプリ。喧嘩仲裁アプリは、お金を払いたいくらい解決したい課題かということが大事、というアドバイスをもらって考えた。私が今辛いと感じることで、お金を払って解決できるものは少ないと思って。いろいろ考えていた時に彼氏が、私が機嫌が悪くなった時に『何をしても機嫌が直らない』と。私は機嫌が悪くなると泣いたり叫んだりするので、『お金を払ってでも機嫌を直してもらいたい』と言っていたことからひらめいた。私の機嫌が悪くなった時に、彼氏がデートの約束をギフトという形で私にくれて、私はそれを受け取る代わりに機嫌を直しますよという約束をするアプリ」と説明する。

 高桑さんの事業案に斎藤氏は、「アイディアを見る時に、ニーズの深さと対象の広さが大事。喧嘩仲裁アプリでいうと、『仲直りできるんだったらお金を払ってもいい』という人は結構いると思う。よく言われるのが、これはサプリなのか解毒剤なのか。サプリは『あったらいいな』というもので、解毒剤は『これがなかったら生きていけない』というもの。喧嘩でどうしようもないという時を考えると、このアプリは解毒剤に近い」との見方を示した。


■“良い起業家”の特徴とは

 国内では、スタートアップへの投資額やスタートアップの開業率がここ3、4年急激な右肩上がりを続けている。斎藤氏によれば、「世界で20カ国ほどベンチャー支援をする中で、おそらく今日本が一番起業して株式公開が成功しやすい国になっている」という。

 その理由はお金が集めやすいことだそうで、「昔はベンチャーに興味がなかった大企業が、ここ5、6年でベンチャーを探して組む流れになっている。政府も『J-Startup』を始めて、世界中に発信するということをやっている。今まで政府の政策は“平等”だったが、ここで初めて“えこひいき”をして、その会社を徹底的に勝たせるようになった。安倍政権になって本格的にやり始めたこと」と説明。ベンチャー支援は、世界各国の政府がお金をかける国際競争になっているという。


 一方、日本で起業する上で問題点もあるといい、「インドでは面白い起業家がどんどん出てきていて、例えば病院に行くと医者が全然足りず大行列ができているが、こういう課題にいつも向き合っている若い人からはアイディアがどんどん出てくる。日本の課題は東京にいてもあまりなくて、人口が減少している地方などにたくさんある。この地方の課題と、東京の若い起業家がぶつかっていないことが問題。構造的にアイディアが生まれづらい」と指摘。そんな中で「化けるのは学生起業家」だといい、「今まで誰もやっていなかったことをやるには、学生の方が跳ねる可能性がある。30代・40代になるとある程度成功しそうなものになってしまうが、化けるのは学生」だとした。

 最近、学校でも起業に関するカリキュラムに盛り込まれているケースもある。斎藤氏は「学校を選ぶ理由として、起業家教育があがってきている。大企業にいても安定するか分からなくなっている中で、自分自身でビジネスを作れるというのが何よりも生きていく強さ、タフさになると考える親御さんが増えている。我々が一緒にやらせてもらっているKADOKAWA・DWANGOさんのN高では、起業部というものを立ち上げているが、その中で起業する高校生が出てきていて、学校の人気の種になっている」と話した。


 では、“良い起業家”とはどういう人物なのか。斎藤氏は「アドバイスをした時に、良くない起業家は内容の8割をそのアドバイス通りに変えてくる。しかし、良い起業家が取り入れるのはアドバイスの2割くらい。それくらいの軸をどう持つかがすごく大事」だとした。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


取材&スタジオでの議論の模様は期間限定で無料配信中

続きを見る

0コメント

  • 1000 / 1000