”市販化にNO”アフターピルはなぜ日本で普及しない?遅れた性教育で望まない妊娠


■性知識に乏しい若者たち

 日本で年間に行われている人工妊娠中絶は、約16万5000件にのぼる。1日に約450人が中絶を行なっている計算だ。

 原因の一つが、"望まない妊娠"だ。染矢明日香さん(32)もその一人だ。大学生の頃、間違った避妊の知識によって、予期せぬ妊娠を経験した。「コンドームを着けなかったこともあった。初めは大丈夫かなという気持ちもあったけど、そのまま続けていたら妊娠してしまった。中絶という選択をしたが、やっぱりすごく辛い経験だった」。就職活動に差し掛かる時期だったこともあり、出産に踏み切ることはできなかった。「そのまま妊娠を継続していれば、人が一人生まれて、一人の人間として生きていた。その人生を奪ったという罪悪感は今もある」。

 そんな自身の経験をもとに、染矢さんは2007年、若者向けに性に関するコンテンツを発信する「避妊啓発団体ピルコン」を設立した。動画共有サイトにアップロードした「コンドームの正しいつけ方」は再生回数が約190万回を記録するなど、大きな反響を呼んだ。

 渋谷で若者に話を聞いてみると、「月曜日やらかしました(笑)。中に。生でやっちゃいました」と話す女子高校生もいた。中高生に向けた性教育講演も行っている染矢さんは「膣外射精で避妊になるとか、安全日だからとか、誤った認識を持っている子は多い。性のことをオープンに話したことがなく、知識があったとしても恥ずかしがって話さない子も多い。海外では日本と比べて性を扱う時間数も多く、カリキュラム化・義務化されている国もある。教員や保護者向けの教材も豊富だ。日本では妊娠に至るまでの過程は扱わないとか、避妊について小中学校で扱うのは不適切だというような考え方の人も多い」と話す。

 日本の性教育の遅れについて、東京都教育委員も務めた作家の乙武洋匡氏は「昨年、足立区で行われた授業の事前アンケートの結果、性知識が乏しい一方、セックスへの意欲は高いということで、妊娠・中絶・避妊についての授業を行った。ところが、その内容を知った自民党の都議が議会で"行き過ぎだ"と指摘した。そしてあろうことか、東京都教育委員会が足立区教育委員会に指導をしてしまった。つまり、教育委員会が"教えるべきではない"という側に立った。大問題だと思う」と指摘する。


■時期尚早?市販化は見送りに

 そして染矢さんたちが講演でも紹介するのが「アフターピル」だ。性交渉後の一定時間内に女性が服用すると薬に含まれる女性ホルモンが排卵を遅らせ、妊娠を回避することができる緊急避妊薬だ。薬によって72時間〜120時間以内の服用が有効だが、100%避妊ができるというわけではなく、頭痛・胃の痛み・吐き気などの副作用もあるという。

 染矢氏が高校生にアンケートを取ったところ、アフターピルの認知度は20%ほどだという。しかし避妊啓発団体ピルコンの女性スタッフは、アフターピルについて「飲んだ後は安心感があった。自分の体のことは自分で守らないといけないとその時に意識した」、「中で出すのをやめてくれっていうのが言えず、避妊をしてもらえない状況だった。3回目の時に週末を挟んだので72時間以内に処方してもらうことができなかった。するとやはり妊娠してしまった」とその効果に期待を寄せる。

 そこで彼女たちが切に願うアフターピルの市販化だ。現在、日本でアフターピルを手に入れるには医師の処方箋が必要であり、ハードルが高いのが現状だ。「連休などで医療機関が休日の場合、性交渉後72時間を過ぎてしまう懸念」「若い女性(特に未成年)にとって産婦人科は精神的にもハードルが高い」「ネット上では違法に販売されており医療従事者が正しく提供する必要がある」と、市販化を求める声も根強い。

 厚生労働省でも昨年、市販化を巡る議論が行われたが、一般公募で賛成320件、反対28件と賛成意見が圧倒的に多かったにも関わらず、「安易に販売されると悪用や濫用の懸念がある」「避妊具の使用が減り性感染症のリスクが増大する」「成功・失敗の判断ができず受診が遅れる可能性」「薬局、薬剤師の知識で個別対応できると思えない」「仮に効かなかった時の責任の所在は」といった懸念点から市販化は見送られた。

 弁護士ドットコムGMの田上嘉一弁護士は「"女性の性は家長が管理している"というような、近代以降の保守的な考えに近い。今は女性が誰と結婚し、いつ妊娠するかということを決められる時代。それなのに法律でアフターピルの販売を禁止していることは、女性が自分で決める権利を国家が縛っているということで、人権問題だと思う」と話す。


■オンラインで処方する医師の訴え

 腰が重い国に対し、誰もが気軽にアフターピルを受け取ることができるようにと、提供に踏み切った医療機関もある。


 「ナビタスクリニック新宿」では、恥ずかしさや忙しさ、誰かにバレたらという不安から診療を敬遠しがちな人たちのために、今年9月から「オンライン診療」でのアフターピルの処方を始めた。病院に行かずとも薬を郵送で受け取れるということもあり、毎日のように相談が寄せられるのだという。

 久住英二医師は「ベストではなくても、せめてアフターピルだけでも飲めば約95%の確率で妊娠のリスクを押さえられるし、WHOも全ての女性がアクセスできるようにすべきだと言っている。厚生労働省からは"不適切である可能性がある"という、ありがたいコメントをもらっているが、私からすればアクセスを妨げている方こそ不適切だと思っているので、どんどんと自分が考える方向に進めていきたいと思っている。処方する上で一番大事なのは、いかに早く届けるかということだが、錠剤を取りに医療機関に来るのが難しい方がいらっしゃる」と話す。


 また、市販化を見送られた背景について久住医師は「検討会での委員の方々の発言をみると、"性教育に遅れがあるので薬をきちんと使用でない"という文脈が流れている。遅れているのは国の教育の問題であって、それを理由に救済手段を与えないというのは矛盾していると感じる。また、副作用も頭痛が18%、胃の痛みが12%、吐き気が12%の方に生じるが、一過性のものあり、これによって妊娠のリスクを回避できると考えれば、極めて小さなリスクだと思う。それなのに"リスクがあるから"といって売らないのはおかしい」と指摘する。

 「日本国内で承認されているのがノルレボという薬で、売り上げから推定すると年間11万錠ほどが発売されているとみられている。一方で日本の人工妊娠中絶の件数は年間16万5000件。中絶件数よりもアフターピルを服用する件数が少ないというのはありえない。ノルレボが発売されたのは2011年だが、それ以前は本来の使用目的でない中容量ピルを2回服用させることで、効果としては劣ってしまうが緊急避妊薬として用いられていた。海外だと2000円前後で薬局で購入できるが、日本では医療機関で購入するときの値段が診察料込みで15000円もする」。

 さらに久住医師は「アフターピルだけでなく普段から使う低容量ピルもある。あまり知られていないが、低容量ピルを使うと将来的に卵巣ガンになる可能性が3〜5割減少するし、子宮体ガンのリスクも減少する。子宮内膜症の予防もできる。女性の健康を高める上で非常に有効だ。40代女性の4人に1人が貧血になるが、これは月経による鉄分の喪失が原因。新しいピルの場合、月経が来るのを4か月に1回程度にできるので、女性アスリートが使用することもある。避妊だけのものではないということは知ってほしい。日本では毎日飲まないといけないものしかないが、海外では薬が染み込んだチューブを皮下に埋めこんで、1度入れると3年間生理がこないというものもメジャーだ」と話、ピルへの理解と普及を呼びかけていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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