生活保護受給者が睡眠薬を売買…西成・あいりん地区で今なお残る「闇市」は必要悪か

 世界中から多くの観光客が訪れる大阪・新世界からもほど近い、西成の「あいりん地区」。1泊1000円前後の簡易宿泊所が建ち並び、日雇い労働者たちが仕事を求めて集まる"日本最大のドヤ街"だ。

 かつてのあいりん地区といえば、かつて違法な屋台が並びドラッグなどの売買も横行、歩道には不法投棄されたゴミが溢れる危険な場所だった。そんな状況を何とかしたいと大阪市は2012年に「西成特区構想」を打ち出す。2015年には警察による一斉摘発も行われ、犯罪の温床と言われた「闇市」も姿を消していた。それから3年、星野リゾートもアミューズメント施設を備えたホテルを開業する予定となった今でも、あいりん地区には闇市が残っていた。

 50円の自販機や1玉25銭のパチンコ店など、物価の安さでも知られるあいりん地区だが、早朝5時、路上生活者や生活保護受給者たちが出店する闇市の一角を覗いてみると、消費期限が半日近く過ぎたコンビニのおにぎりやサンドイッチ弁当などが2、3個で100円という値段で売られていた。この他にも、海賊版DVDや本物なのかどうか分からない人気ブランドの財布、Bluetoothのヘッドフォンや新品のIQOSなど、多い時には40店舗ほどが軒を連ねる。

 とりわけ目を引いたのが薬品の数々だ。手に取って見ていると、店主が「それは便の薬。酸化マグネシウム」と話しかけてきた。使用期限を尋ねると、店主はスマホの音声検索で調べ、「期限なんて書いてない」と答えた。別の店では、全て病院で処方されたものだという睡眠薬がずらりと並んでおり、1シート(10錠)で1000円の値がついていた。睡眠薬は「お酒と飲むことによって、眠気を我慢したらアップ系に変わる。(気分が)ハイになる」として闇市の中でも"売れ筋商品"だというが、こうした医薬品を無資格者が販売するのは違法行為にあたる。

 また、彼らはこうした薬を、同じ境遇の人たちから買い取って販売している。生活保護受給者は医療費が免除されているため、制度を悪用して転売用に薬を入手、1シート600円ほどで闇市の店主に売るのだという ある男性は「病院で"頭が痛い"って言えば、聴診器も当てず、何の疑問も持たずに処方してくれる」と証言する。「売れるものを人にタダでやるわけにいかんからね。売ったらビールが1杯飲めるから」。

 地元・西成区薬剤師会の尾辻利章副会長は「まだやってるのか。これ飲んで何かショックを起こす場合もある。売った方、渡した方が殺人者になる可能性がある」と話す。取材班は、こうした危険性について闇市の店主を直撃したが、何も答えぬまま立ち去っていった。


■西成の元暴力団組長「闇市は必要悪だ!」 

 闇市の店主の多くは、大阪市のホームレス対策によって生活保護を受給しながら暮らしている人たちだ。二畳一間ほどの「福祉アパート」と呼ばれる住宅に住み、家賃や光熱費、日用品代などを差し引くと、食費など、一日に自由に使えるお金は2000円ほどだという。中には悪質なアパート経営者に生活保護費を搾取され続けた人もいるようで、とある路上生活者は「えらい目にあった。もう懲りた。不動産屋がヤクザ」と話す。

 かつて西成で覚せい剤の密売などを行い、6年前に組を解散して薬物依存症者の更生支援団体を設立した山口組系暴力団の元組長・木佐貫真照氏は、小規模な売上であることから暴力団などの資金源になることはありえず、生活保護受給者たちがわずかな贅沢としての酒やタバコの代金を稼ぐために存在しているのだと訴える。

 「例えば睡眠薬1シートあたり400〜500円の儲け。それで酒の1、2杯は飲める。生活保護をもらっているひとが、暮らしに余裕を、と思ってやっていること。だから闇市は必要悪。そこまで取り締まったら生活はギリギリになって、暴動が起こる可能性がある。だから警察も厳しく取り締まる気はないんじゃないか」。

 西成区のホームレス数は2012年1月の822人から、今年1月には508人に減少、西成あいりん地区の生活保護受給者数も2012年の9300人から昨年は8200人に減少している。しかし木佐貫氏は「住みづらくなった西成から住之江や東住吉に移っているだけで、生活保護受給者そのものが減っているわけではない」と指摘、「闇市をしなければ食べていけない人もいる。何度取り締まっても一緒。場所を変えてまた始める」との見方を示した。


■全てを取り締まるのではない「寛容な政策」も

 地元住民の中には「部活の朝練に向かう中学生が闇市のそばを通るのはあまりよろしくないかな。困る」と、不安を募らせる人もいる。

 お笑い芸人の小籔千豊は「生活保護ももらわず、大学も出て、立派に生活出来ている人が社会の大半を占めていて、そこから法律が作られていくことになるので、"万博があるから、オリンピックがあるから、退け。そうじゃないと日本が変な国に思われるから"という意見も出てくる。でも、この問題は社会全体が"必要悪"をどこまで許すかというラインが関わってくる問題だ。"闇市で薬を売ったら絶対だめだ"と言う人に限って、"人間の命とは…"強調するが、それは結果として相反する結果にならないか。貧しい生活の中でビール一杯飲むくらい、と人情として思ってしまう一方、"あかんことはあかん"という気持ちがあって揺れている」と心情を吐露。

 拓殖大学非常勤講師の塚越健司氏は「例えば仮出所中の人が誰か一人でも犯罪を犯してしまうと、メディアも含めてやっぱりダメだ!と感情的になってしまう。そういう共感ベースではなく、長期的にデータで見て、どのくらいお目こぼしすれば、犯罪が抑止されて苦しい人が救われるのか考えるべきだ」と指摘する。

 「東京では石原都政時代に歌舞伎町浄化作戦として風俗店などを取り締まった結果、個人売春や性暴力のリスクが出てきた。全てを綺麗にしようとすることでアンダーグラウンドにいってしまうリスクどう考えるかが重要だ。70年代のアメリカでは、中毒患者のことを考え、麻薬を全て撲滅するのをやめた。強い薬物については厳しく取り締まる一方、そうではないものについては寛容にするという政策を取ったことがある。感情を抜きにして、犯罪行為は一定の割合で起こることを前提に、犯罪率が下がることを目指した。今回で言えば、薬は取り締まるが、廃棄弁当はOKとするといった寛容政策もあり得る」。


■高齢化で肉体労働は厳しい中、行政はどこまで対応すべきなのか

 エッセイストの犬山紙子氏は「生活保護などの行政から必ずはみ出してしまう人も出てくるので、それ以外に多様な支援を考えておくことが必要だ。取り締まるのであれば、救うための代案も出さなければいけない」と訴える。

 実際、行政側も収入を増やすための対策を講じている。西成の職業安定所の駐車場で交通整理をする係員の多くは、地域の高齢者たちだ。西成労働福祉センターによると、これは高齢で建設現場などでは働けない人のための「高齢者特別清掃事業」の一つで、朝5時〜10時までの5時間労働で日当は5700円。1日の就労人数は26人で、登録者による輪番制で55歳以上であることが登録条件の一つだという。このように生活費に困る人たちのために仕事を用意することも方策の一つだが、見方によっては税金の投入をどこまで行うのか、という難しい議論にも行き着く。

 社会問題に取り組む「リディラバ」の安部敏樹氏は「何でもかんでも行政が用意してあげたり、自由にしてあげたりするのではなく、バランスが必要だが、闇市をやっている人たちは自分で商売しようとしているという意味では、怠けているというより努力をしているとも言える」と指摘、「この地域でも、役所の人だけじゃなくNPOが自転車の管理をする仕事などを作っている。高齢化も進む中、闇市がどんどん増えていくわけではない。いかに幸せに人生をまっとうできるかという視点からサポートすることが必要だ。また、特に40歳前後の"ロスジェネ世代"と言われている人たちの中には、不本意ながら非正規雇用のままでいる人もいる。こういう人たちが20〜30年後に似たような環境にならないよう、真剣に学び議論すべきだ」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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