「一人暮らしに限って言えば、家に住むメリットはあまりない」…"年収1200万円と家を捨てた男"の生活とは

 「僕の家じゃないんですけど(笑)」。そう言って、銀座駅から歩いて8分の高級マンションの部屋を案内してくれたのは、"家を捨てた男"こと市橋正太郎さん(31)。地価日本一を誇る東京・銀座だけあって、2LDKで家賃30万円以上の高級物件だが、市橋さんは民泊仲介サービス「Airbnb」と使って、1泊7000円で借りることができたという。

 京都大学を卒業後、都内の大手IT企業に入社。年収1200万円以上のエリートサラリーマンだったが、半年前、転職を機に「生活環境を変えたい」と家賃13万円のシェアハウスでの生活を捨てた。物に全く執着がない性格だったこともあり、持っていた家財道具や衣類も「メルカリ」に出品して手放した。「箱、ファシリティに数万円を払うのは、すごくもったいないと思ってしまった。家の機能をどんどん外出ししていくことで、もっと豊かに生活できると思う」。

 以来、民泊やゲストハウスなど都内を中心に街を転々としてきた。「宿を毎日探さなければいけないのは、正直まだちょっとストレス。でも泊まれる場所は意外とあって、スマホで探せばすぐ予約できる。出費を押さえたいときは1泊2000円、今日は贅沢したいなと思ったらいいホテルに泊まることもある。安いときは1か月の宿泊費が6〜7万。光熱費も実質かかっていないので、普通に住むよりは2、3万、安く住める感じ」。

 そんな市橋さんが近頃気になっているというのが、貸し会議室・レンタルスペースの予約サイト「Spacee」だ。夜間には使われていない貸し会議室を1時間100円程度で借りることができるという。「マットレスを持ち込めば、快適ではないが1泊600円くらいで泊まれる。それが都内最安の宿なんじゃないか。面白い」。


■「テラスハウス気分で」見ず知らずの人たちと短期ルームシェアも

 「家なし生活はメリットだらけ」と話す市橋さん。「トラブルは特にない。デメリットも特にない。この生活を始めて太りました。きょうも自転車で移動したんですけど…」と笑う。毎日の楽しみが"サウナ付き銭湯"だ。入浴料はかかるが、光熱費が浮くだけでなく浴槽にお湯を溜める時間も節約できると話す。

 市橋さん同様、"家を捨てる"という人生を選んだ日置愛さんは、一週間限定の短期ルームシェアサービス「weeeks」を立ち上げた。趣味や目的別に見ず知らずの人たちをマッチングし、共同生活できる施設を紹介するサービスだ。「私が興味あるのは、時間にどういう色をつけるかということだけ」。利用比率は女性の方が高いという。

 市橋さんもweeeksを利用している。「テラスハウス気分できました」と話す女性2人を含む4人で待ち合わせ、向かったのは表参道駅から徒歩7分、2LDKで通常は家賃20万円以上の物件だ。しかしweeeksなら1週間で利用料金2万円。1泊あたり3000円ほどの計算だ。4人はここで1週間のルームシェアを行う。

 「よろしくおねがいします」とビールで乾杯、家なし生活の魅力を語る市橋さんに、女性たちからは「全然あり」「実際私もそういう生活をマジでやってみたいと思った時があった」と興味津々だ。


■「家なし生活」を支える、スタートアップとシェアリングサービス

 市橋さんが定住せずにに生活できる理由は転職先の企業にもあった。


 現在、市橋さんがマーケティングの仕事をしている「m-gram」。ウェブ上で自分の性格分析ができると人気の「エムグラム診断」などを展開しているベンチャー企業だ。市橋さんは住民票の住所を会社の所在地に移動、郵便は会社で受け取っている。マイナンバーカードなどの貴重品は会社のロッカーに保管、会議室にはハンモックを置き、ここで寝泊まりすることも多いという。同社の松村有祐社長は「自由にしたらいいじゃん、と。会社としてもそういうのを応援したいなと思った」と話す。会社として、市橋さんの新しい生き方をサポートするため、毎月1万円の補助金を支給している。

 もう一つ、市橋さんの生活を支えるのがシェアリングサービスだ。スマホの中には「Airbnb」「メルカリ」はもちろん、「Uber」などのアプリがズラリ。「今の生活スタイルでスマホが通信制限になったら死活問題っすよ。死にます(笑)」。

 会社には、定期的に洗濯代行サービス「しろふわ便」の回収バッグが届く。洗濯物1回あたり9kg分までを月に5回、指定した場所で 「回収→洗濯→お届け」してくれる。基本料金は8800円だが、リピーター率は98%だという。洗剤の量や乾燥時間を調整、細かいホコリまで取ってくれるだけでなく、自家製たたみ機で丁寧に畳んでくれるというこだわりのサービスだ。市橋さんは週に1回程度の頻度で、衣類の洗濯を依頼している。「普通、クリーニングだと下着とか靴下は洗ってくれないんですよ。でもこれは全部洗ってくれる。土日に自分で干したり畳んだりして3時間くらいはかかる。時給1000円だと考えると1回3000円なので、代行に頼んでも高いとは思わない」。

 会社に置いていない荷物については、人気収納サービス「サマリーポケット」を利用している。アプリから専用段ボールを取り寄せ、荷物を宅配便で送ると、仙台の巨大倉庫で保管してくれるサービスだ。基本プランは1箱月300円からで、運用会社が中身を写真に撮ってリスト化してくれるため、必要になれば1点から取り寄せることができ、不要だと思えば「ヤフオク!」への出品代行してくれる。


■「一人暮らしに限って言えば、家に住むメリットはあまりない」

 年収1200万円から年収600万円の会社に転職、さらに家なし生活を選んだ市橋さんに、周囲の人たちには「考えられない」と驚かれた。

 「そうじゃないんだよなって。その600万円で探検みたいな価値を買っているような感覚。誰も知らない事を知っているんだ、という方がワクワクする。こういう生活を始めるにあたって、僕の中では違和感が全くなかった。直感的にそっちがいいなと思ったし、合理的に考えてそう思う。でも一人暮らしに限って言えば、家に住むメリットはあまりないような気がする。今は僕にとって投資のタイミング。生活スタイルはステージごとに変えていけばいいし、自分をもっと広げた上で、どこかで回収するタイミングが来ると思う。それがいつかはまだ分からない」(市橋さん)。


 慶應義塾大学の若新雄純・特任准教授は、市橋さんのような考え方について「家やベッドなど、僕らは生活の中で"確定的なもの"を増やしていく。それが多い方が安心するし、ある選択をやめたら次の選択へ、つまり確定的なものから、また別の確定的なものに変わるのが普通だった。市橋さんは逆に"確定的なもの"を減らし、"不確定的なもの"を増やした。自分がどういう暮らしをしているかということを本人ですら説明できないところが面白さ。どうなるか予測できないから"理解できない"と感じるのだろうが、あえて予測できないようにするところがこの生活の価値だ」と話す。

 「そこそこの所得があって、そこそこの暮らしがあっても、何の付加価値も感じられない人生というのがもっとも不幸。高い店に行きたがらないからといって、欲求がなくなったということではない。お金をたくさん使って消費することだけが必ずしも人生の充実につながるわけではない、ということに何となく気づき始めている人が増えているということ。人生の中で、一人暮らし期間は修業や模索の期間にあたるという人が多いと思う。その時期には、確固たる住まいは確かになくてもいいのかもしれない。東京でいえば色々な街があり、アトラクションがあるのに、一つのところに住み始めると家と職場の決まった往復しかしなくなってしまう。色々なものが詰まっている街にいて、点と点の移動しかしないのはもったいないという考え方もできる」。

 若新氏の説明に頷く市橋さんに、漫画家の峰なゆかは「こういう人とは恋愛したくない。すぐ家に転がり込んできそう」。市橋さんは「転がり込みません。普通にホテル行けばいいんで」ときっぱり答えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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