23歳の脚本家・井上聖司、視聴者の心を掴むには最初の3分が勝負「脚本は1枚目が抜群に面白くなくてはダメ」


 次世代の才能を発掘することを目的として株式会社AbemaTVは「NEXT CREATOR'S COMPETITION」を開催。「シナリオライター賞」としてオリジナルドラマの脚本を募集した。 募集テーマは「10代~20代の若い女性を熱狂させる恋愛ドラマ」。受賞作品はAbemaTVのオリジナルドラマとして2018年中の放送を予定してるほか、賞金として大賞には500万円、優秀賞には100万円が贈られる。応募条件は「プロの脚本家を目指す者」とし、35歳という年齢制限も設けた。


 審査員の1人である脚本家・井上聖司さん(23)は2015年、「フジテレビヤングシナリオ大賞」の佳作を受賞し、脚本家デビュー。2016年には、話題作「せいせいするほど、愛してる」で共同脚本を担当し、現在はネットドラマの脚本を書きつつ、並行して撮影の仕事も行うなど監督的な役割も果たす。そのほかにもミュージックビデオや、アパレルブランドのウェブ動画広告のCMディレクターも行うなど活動の幅を広げている。井上さん曰く「別に脚本家だけを目指していたわけではなく、色々なことに足をかけていき、そこで最初にひっかかったのが脚本でした。僕は何にでも手を出した結果の今があります」とのこと。そんな井上さんに、いかにして脚本というものが作られているのか、そしていくつかのキーワードについて聞いた。「あんこ」「王道」「メモ」など、脚本づくりにおいて重要な言葉が次々と飛び出した。


「小説の賞を取っていたら小説家になった」脚本だけではない創作欲

井上:僕は昔からものを書くことが好きでした。小説家と脚本家は別の仕事ではありますが、小説家になれるなら、小説家でもいいと思っていて、脚本家だけをやる、というこだわりはないです。なぜ脚本? というのはよく聞かれることですが、たまたま賞を受賞できたから、ということです。もし、小説の賞を取っていたら小説家になっていたと思います。小説を書くかとか、漫画の原作をやろうか、とか、常に何かを作り出せていければと思っています。


元々シナリオを書き始めたのは2014年の頭ぐらいです。その頃、「フジテレビヤングシナリオ大賞」というコンテストの存在を知りました。大賞は500万円もらえるということだったので、がぜん興味が湧いたんです。それが締め切りの1週間前でしたが、大阪に取材にも行き、応募したら佳作を取ることができました。


僕は早咲きと言われることはありますが、脚本に関してはデビューが早ければ早い方がいいってことはないと思います。脚本は、当然センスは重要なものの、あらゆることを経験し、その経験をいかにアウトプットするかということだと思います。その人がどんな生き方してきたか、を投影するのが脚本です。


メモを掛け合わせる作業が好き「忘れていたことと“今”で面白いものができる」

――だとすれば、自分が何が好きで何が嫌いか、ということを明確にした方が良い脚本は書けるということかもしれませんね。


井上:僕が嫌いなことはいわゆる「気遣い」です。イヤなことはイヤだと言います。すべてをシンプルにしたいんです。打ち合わせをしていると、海外の人と話すとすぐに進む話なのに、日本の場合は、お互いに気を遣って本当は何らかの問題があることは分かっているというのに「どうしましょうかね……」となり、打ち合わせが進まないことがあります。ダメなところは並べてもらいたい。「僕はこうしたいけど、あなたはどうしたい?」と言われた方がいい仕事になります。一緒に何か良いものを作ろうというプロジェクトの中で、まわりくどい余計な気遣いはいらないので、作品がつまらなければ「お前の脚本はつまらん!」と言っていただきたいです。


こうして苦手なことがある一方、好きなこともあります。僕は考えていることが好きです。原稿書くのもそうですし、そもそもの企画を考えるのが好き。ゼロから考えるのが好き。そのためには、ネタが必要ですが、昔からメモを取るようにしています。大きなノートみたいなのを買って、色々なことを書いています。


それは本当に雑多なものが多く、昨日はオムライスを食べたときに何を思ったかとか、その時に何が面白かったとかを日々書いています。そういうのを書いているノートを見て、過去のものも含め、メモしたものをくっつけたり掛け合わせると、面白いアイディアが思い浮かんだりもするのです。この作業がすごく好きです。忘れていたことと、“今”がくっつくと面白いものができると感じています。


――物語を作るには、なんらかの挫折やコンプレックスといったものも影響すると思うのですが、井上さんにそういった体験はありますか?


井上:僕の母は17歳で僕を生んで、生まれてすぐに育児放棄しました。すぐに父方の祖母に引き取られました。その時は父も一緒に住んでいたのですが、3才で父も出て行きまして、祖父と祖母に育てられました。3歳ぐらいの頃に母が迎えに来た記憶があるのですが、そこら辺は曖昧です。今は母とは仲がいいですけど、親子の愛とかそういうこととかは、コンプレックスがあるかもしれませんね。自分の中では“ない”と思ってはいるのですが。


ネタを考えるにあたってメモを日々つけていることはお話しましたが、中学生ぐらいから僕はメモは書いていました。当時使っていたスマホにメモがたまっていて、結果的に10年分ぐらいのメモがたまっていったのです。メモは街中のいたるところでします。それを先ほど紹介した大きなノートに書き、視覚化するんです。こうして大きな紙に書いたメモだと、一個一個見る必要はありません。とにかく膨大な量のメモがあるので、スマホの場合は最初に見たものは忘れます。でも、紙を使うと一枚に収まります。そのメモの中には、今現在考えていることと全く違ったりするものもあり、これらを繋ぎ合わせるとキャラが二人出てきたりもします。それこそ主人公と敵キャラだったり……。こうした形で、昔からメモを取る習慣はあったので、今の脚本づくりに役立っているのかもしれません。


元々僕は学生時代から漫画原作みたいなものは書いていて、学校で友達に無理矢理見せたりしていたんです。だから今も同じことをしているという感覚です。


賞を狙えるのは “王道モノ”「一般受けを狙いつつも、見た目が違うものを」

――ネットのドラマを書く理由ってのはありますか?


井上:僕の周りでは、テレビよりもスマホの方が動画は見てもらえるような気がします。母以上の世代だとテレビの方が見られると思いますが、自分たちの同世代ではネットの方が影響力があったりします。それもあって同世代に見てもらえる媒体で書きたい、と思っています。そして、ストーリーについてですが、こうした脚本のコンテストに応募するのであれば、超マニアックなものというよりは、一般受けするもので狙いたいです。


結局、賞を狙える作品は、一般受けするものです。“ヤンシナ”の時も一般受けを狙いつつも、見た目が違うものを書きました。ざっくりとした例えになりますが、結局饅頭の中身は、あんこが1番売れるんです。もちろん、あんこという中身は王道でありながらも、皮だけは違うものにする。そういった工夫は必要だと思います。


饅頭を作ろうとして、いきなり中身があんこではないのもので勝負するのは難しいと思うんです。あんこを十年作り続けた人が別の中身を考え抜き、やっと成立するのです。だから、脚本を書くにしても、最初は王道的な作品を書く方がいいと思います。


今回僕は応募者が作った作品を審査するということになりましたが、自分が持っていないような――この角度から見るのか!? という作品を見たいです。ただし、その中には先ほどから述べている“王道”の線が通っていないとダメですね。


“王道”というものは、シンデレラとかが典型的でしょう。最初は虐げられていたのに、最終的には幸せなゴールにたどり着く。虐げられていたのに、華やかな世界に行く、とか。脚本の場合は、最初と終わりは一本筋を通し、その合間にある“アプローチ”で面白くできればいいのではないでしょうか。最初と最後が大事、という意味では、最後に不幸になることが多いグリム童話とかも“王道”といえるかもしれませんね。


必ずしも、ハッピーエンドで終わることが王道だとは思っていません。話の流れの“起承転結”があるのが基本的には王道なのです。成長する過程があり、始まりと終わりとが違う、という流れがキチンとできていれば、ハッピーか、バッドかは関係なく“王道”であり、こうした作品が面白いと思います。


視聴者の心を掴むには「1枚目が抜群に面白くなくてはダメ」

井上:僕が脚本を書くにあたって気を付けているのは、60枚のボリュームがあるのなら、1枚目が抜群に面白くなくてはダメです。今の時代、本当に最初の3分とかで視聴者の心を掴まなくてはいけません。元々テレビドラマでは“10分までに掴まなくてはいけない”といったセオリーもありましたが、今は10分もたないと思います。それこそ3分とか2分で視聴者の心を掴むような作りこみをしなくてはいけないのです。


特にネットはそうです。僕はYouTubeを見ていても、5秒スキップをよく使います。つまらないところは見ない。こうしたことをなくすためにも、盛り上がりまでをより短くする。テレビは意識的にCMがあり、CMの間にチャンネルを変えるといったことができます。でも、ネットだとそういったマインドではなく、いつでも視聴をやめることができるのです。「ここまで見てみよう!」という気持ちにいかになってもらうかを考えたいところです。


AbemaTVで作りたいドラマは、民放では書けないものですね。こでしか書けない話を書きたいです。めちゃめちゃ尖っているというわけではなく、王道ではあるものの、僕が心から面白いと思うものを作りたいです。


インタビュー・テキスト:中川淳一郎

写真:長谷英史


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