北朝鮮危機で韓国・文在寅大統領が強硬姿勢へ 日本では誤解されている「斬首作戦」の中身とは

■方針転換した文在寅大統領、その政治思想とは

 6日、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った韓国の文在寅大統領。「ここで北朝鮮の挑発が止まらなければ、統制できない局面に陥り得ると思う。北朝鮮の挑発を止めさせ、核問題を根源的に解決するための方法も共に模索することを希望する」と発言した。韓国は北朝鮮の核実験後、「最も強い報復措置をとる」としてミサイル発射訓練を実施、7日には迎撃ミサイルシステム「THAAD」も追加配備。従来の"対話路線"から転換する姿勢を見せている。


 今でこそ強硬姿勢を見せる文大統領だが、就任当時は「条件が整えば平壌に行く」と宣言するなど「親北政権」だとの見方が大勢を占めていた。追加配備が発表された「THAAD」についても、中国との関係を重視、就任当初は配備を先送りする声明を出していた。

 北朝鮮生まれで、朝鮮戦争の戦火を逃れ、避難民として韓国に移住した両親を持つ文大統領。大学時代、当時の朴正煕大統領が率いる軍事政権に反対するデモを主導し逮捕された経験もある。人権弁護士として活動していた時期に、後に大統領となる盧武鉉氏と出会い意気投合。北朝鮮との南北首脳会談を実現させるなど、盧大統領の融和政策を支えた。また、経済的支援などを柱とする"太陽政策"を掲げ、初の南北首脳会談を実現させた金大中元大統領の遺志を受け継ぎ、7月には南北関係改善への思いを込めた「新ベルリン宣言」を発表、北朝鮮に対し平和的な統一を呼びかけたこともある。

 

 AbemaTV『AbemaPrime』では、専門家に韓国の視点からの北朝鮮危機を分析してもらった。


 朝鮮半島情勢に詳しい麗澤大学客員教授の西岡力氏は、文大統領の政治思想について「彼の周辺には80年代に学生運動をやっていた人が多く、中には北朝鮮主導による統一がいいと本気で思っている"主体思想派"というセクトの人もいる。ただ、それは社会主義が良いということではなく、民族主義が理由だった。金日成は日本と戦い、中国やソ連にも頭を下げず、貧しいけれども民族主義を貫いた。それに対し韓国の李承晩大統領は戦わず、親日派の処分もしなかった。朴正煕大統領も、かつて日本に協力した人を使ってきた。そんな"親日派"が政権を握っているのは、民族主義の観点から穢れているのだという歴史観が広まっていた。実は韓国では、こうした歴史観も隠れた政治の争点だ」と解説する。

 「しかし、盧武鉉大統領も就任後はそうした思想を貫くことは叶わなかった。文大統領も、朴槿恵政権が決めた、従来の歴史観を排除した国定教科書を取りやめるなどの対応はしているが、この状況ではなかなか難しい」(西岡氏)。


 元共同通信ソウル支局長でジャーナリストの平井久志氏は「日本人が誤解しているのは、韓国で進歩派と呼ばれる左派は、米国依存を脱却し、自前で防衛力を強化することを目指してきた。韓国では有事の際の作戦統制権は米国が持っていることから、文大統領はこれを任期内に韓国に移管することを選挙公約にしてきたし、国防予算の拡大も目指している」と話した。


■日本では誤解されている「斬首作戦」の中身とは

 今回、宋永武国防相が金正恩委員長を狙ったものとされる「斬首作戦」の部隊を12月に創設する考えを表明したことが話題になっている。これについて平井氏は「今回、具体的な日付が出てきたという点だけが新しく、年内にこの部隊を創設するというのは、もともと朴槿恵政権で決まっていたこと。韓国では大きなニュースになっていない」と話す。


 また、その具体的な内容について西岡氏は「"斬首"という言葉が直接的なので、特殊部隊が彼の首を落とすようなものだと思われているが、それがメインではない。もともと、朝鮮が韓国を攻撃する兆候を72時間前に見つけ、48時間前に前線の高射砲やミサイル発射基地などの攻撃能力、中心施設を先制攻撃するという米韓合同作戦計画『5027』というものがあった。しかし2008年にクォン・テヨン博士という人が"それだけでは足りない、攻撃能力を100%奪わなければ、ソウルが火の海になる"と指摘した。そこで、爆撃とミサイルで通信施設などを破壊し、最高司令部と攻撃部隊の連携を絶つ、その意味で"首と胴体を切り離す"、"斬首作戦"(米韓合同作戦計画『5015』)になった。今回の米韓合同軍事演習でも飛来した、グアム基地を拠点にしているB-1B戦略爆撃機は米韓同盟の外にあり、トランプ大統領が決断すれば使うことができる。金正恩はこれを一番怖がっているので、グアムを攻撃すると威嚇した」とし、日本人がイメージしているような、特殊部隊による急襲作戦とは異なるものだと説明した。


■日本は拉致被害者の帰還についても主張を

 文大統領の方針転換にもかかわらず、今のところ北朝鮮が対応を軟化させる気配は見られない。


 西岡氏は「核実験があったと聞いて、展開が早いと感じた。北朝鮮が焦っているような感じがする」とした上で、「朴槿恵政権末期の韓国は、『核を諦めないのであればレジームチェンジをする』というところまで踏み込んでいた。対話ではない。これに対し、文大統領は対話の扉を開き、斬首計画についてもブレーキをかけようとしていた。そうすれば北朝鮮が融和路線に出ると踏んでいたが、突っぱねられた形になっている」と指摘。平井氏も「北朝鮮としては政権の安定が第一目標なので、米国との関係が変わらない限り、文大統領と対話しても今は得るものがない」とした。

 その一方、西岡氏は韓国ではなくアメリカが"本気"を示すことが、北朝鮮との対話の糸口になる可能性があると指摘する。


 「クリントン政権が北朝鮮への爆撃を断念した理由は、韓国側の犠牲者が100万人に上るというシミュレーションが出たからだと言われているが、それは事実ではない。アメリカはシミュレーションの結果が出た後も爆撃の準備を続けていた。そこに金日成が出てきて、カーター元大統領と会談した。平壌からカーター元大統領が電話をかけてきたとき、クリントン大統領はまさに爆撃のための会議をしていた。2002年、ブッシュが大統領が北朝鮮を『悪の枢軸』と名指しし、イラクを軍事攻撃したことが、日本人拉致被害者の帰還にも繋がった。北朝鮮は本気で軍事的に圧力をかけたときには出てくる。今、アメリカは『戦略的忍耐はしない』と言っており、もちろん国連での経済制裁などをやった上で、それでもアメリカ本土まで届く核兵器を放棄しないのであれば、限定的な軍事攻撃も考えると思う。トランプ大統領の任期から考えて、リミットは来年までだろう。アメリカは文大統領が何を言おうが、やるときはやるという構えを見せる。そこまで追い込んで初めて、中身のある対話に応じてくると思う。今、北朝鮮は足元を見ているのだろうが、その意味でまさに"最後の北風政策"が始まっている」(西岡氏)

 今後について西岡氏は「日本としては、核・ミサイル開発の停止だけでなく、全ての拉致被害者が帰すという条件を入れるよう、安倍総理がトランプ大統領にどこまでに要求できるか。まさに嵐の中に"安倍号"が入っていくところだ」とし、平井氏は「中国から石油が来なくなることを想定して備蓄を始めているという話もある。今後、日本列島上空を飛ぶようなミサイル発射があると思う。最近はミサイル基地からではなく移動発射台から打たれている。いつどこからでも打てるので、どこから発射されるかわからない。来月には中国の党大会が始まるので、それまでにいろいろなことを試したいと思っているのではないか。金正恩委員長の仲が良い人はみな国際政治の関係の人ではない。メディアも含め、彼の考えていることを聞き出す機会がないのは不幸なことだ」と話した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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