ニートの増加は問題なのか?過疎の村を救う人たちも

■「ニートの存在に、システムを維持するために必要なヒントがある」

 ニート(NEET=Not in Employment Education or Training)、15〜34歳で仕事も通学も求職もしていない人のことを指す言葉だ。内閣府「子供・若者白書」によれば、2016年度のニートの人数は57万人と、前年に比べ4年ぶりに増加した。定義からは外れる35〜39歳までを入れると77万人にのぼるという。


 AbemaTV『AbemaPrime』では、そんなニートの人々の取り組みを取材した。


 ニートの心のケアを専門にしている「ブラック企業ユニオン」の坂倉昇平氏によると「元々ブラック企業に就職していて、長時間労働やパワハラ被害に遭って、精神的に傷を負ってしまってなかなか就職活動自体もできなくなってしまうケースが多いと思う」と説明する。

 28日、東京都千代田区のとある会議室に約70人のニートが集まった。彼らが耳を傾けていたのが、慶応大学の若新雄純・特任准教授だ。この日行われたのは、若新氏が発起人となって3年前に設立された「NEET株式会社」の新取締役の募集説明会だ。同社の最大の特徴は全員が取締役に就任するという点だ。固定のオフィスはなく、働いても働かなくても文句を言われないという環境の中、思い思いのプロジェクトを立ち上げて活動する。取締役なので決まった給料はなく、得た利益は全て自分の収入になるというシステムだ。

 説明会で若新氏は「NEET株式会社というのは、普通の会社じゃないということ。ニートに仕事をくれて、給料も払ってくれる会社なのかと勘違いしている人がいたら、そういう期待にはお応えできない」と語りかけた。


 説明会に参加した35歳、ニート歴8年間の男性は「恥ずかしながら、今年出かけたのはこれで2回目。ずっと徒歩圏で食料品を買って、家に帰る生活だった」と話す。親子で参加している人もいた。ニート歴3年という男性は「会社やらに入ったがうまくいかなかった。活躍できる年配の方を増やしたい」と抱負を語り、母親は「色々な人と接触することが第一歩。閉じこもってしまうと自分の手が届くところしか見えないわけ。本人の気持ちを変えさせてくれる力はすごいなと思う」と話した。

 若新氏は「ニートはクラスに1人くらいの割合で存在するが、普通に生活していると少数派になって、"俺が間違っているんじゃないか"と孤立してしまう。このような場所があることで、存在が認められ、交流ができるのが大事で、それぞれが何をしているのかという現状や結果はあまり大事ではない」と話す。


 「普通の生き方をしてい多くの人からすると、怪しいし、何をしてるかわからないし、普通のルートに戻ってこいよとなりがち。しかし、元に戻すとか、少数派だから潰すとか無くすではなく、そこから新しい価値が生まれないかと思っている。世界的に見ても完璧だと言われる日本の進学、就職、雇用システムの中で、どうしてもはみ出してしまう一部の人たちの存在が、これから重要になってくると思っている。俯瞰して社会を見れば、このシステムを維持するために必要なヒントを持っていると思う」(若新氏)。

 代表取締役の仲陽介氏(29歳)は、親の影響で幼少期からプラモデルを作ってきた。今は得意の組み立てや塗装を教える事業を展開している。NEET株式会社でスキルを生かした事業を始めたのだ。「悪い条件で仕事をしている人たちが続けるのがバカらしくなるような、そういうものを見せつけられれば、嫌々働く人も減るのではないか」と話す。

 他にも、エナジードリンクとは反対の元気がなくなるようなドリンクを世に出す「ニートドリンク事業部」、課金よりも中身で勝負するという「デジタルゲーム事業部」、レトルトカレーを食べて評価する事業部など、おカネにはならなそうな活動もある。


 さぞ順調なのかと思いきや、そうでもないようだ。仲氏は「3年半経って、立ち上げ時のメンバーは160人から54人になった。どんな事業をするのか、どんな利益の見込みがあるのか、という議論を集まってからしたことと、就職するから辞めるという人が出てきたりとか、たまたま職がなかったから応募してみたいな感じの人もいて…」と説明する。

 しかし、残ったニートの人たちは幸せそうに見える。生活費を親の扶養に頼っている人もおり、「お米だとかパスタだとか、ニコ生の視聴者から送ってもらえるんです。そういうファンの支援で助かっている部分もある」(仲さん)。仲氏を慕うニートの人たちに「納税」について聞いてみると「所得がなければ払わなくていい、というのが国の定めたルール」「会社を作って、所得に関係ない法人税を一応年間7万円くらい払っているからそれでいいんじゃねえかな」といった意見が上がった。

 さらに、「うちらは働くことを強要されているが、その働いた先に本当に求める幸せがあるのかと言ったら、ないというか。理想とはかけ離れたことを強いられるのが、今の仕事の現状じゃないかと思える。少々不便を強いられるかもしれないけど、うちらはうちらなりにやっていくので、『独自のルールを作らせてください』くらいのことは言いたい」という人もいた。


■「ニートは楽しく生きるべき。幸せになる義務がある。」

 NEET株式会社とは違った形で楽しく生活できる場所があった。人口わずか8人、住民の平均年齢が80歳を超える"限界集落"、和歌山県田辺市五味地区だ。携帯電話の電波も届きにくいこの山里で生活するのは、"山奥ニート"と名乗る石井新氏(28)だ。


 人間関係が煩わしくなり大学を中退。一時は引きこもりになった石井氏が見つけたのが、支援団体のNPO法人「共生舎」だ。石井氏は「山奥に家を借りて、社会にあまり馴染めない人を集めて暮らしてみようという話をしていた。最初に住む人がいないというタイミングでちょうど僕が見つけて」と話す。それから4年、1度も定職につかなかった石井氏だったが、現在は共生舎の代表を務めている。

 「ニートがたくさん集まって住んでいるみたいなことを言うと、大体の人は得体の知れない人が集まっていて、嫌だなと感じると思う。でも、この地域の人は本当にそれを受け入れてくれて。他に人がいないから、どんな形であれ"若者がいてくれるのはありがたい"といつも言ってくれる」(石井氏)


 現在、共生舎には10代から30代まで、10人のニートが共同生活を送り、麻雀をしたり、ゲームをして過ごしている。滞在費や食費が2万円あれば十分に暮らすことができ、猟師が仕留めたシカやイノシシ、捕まえた魚など、食材は"現地調達"してもいる。

 神奈川県出身で、去年10月から暮らす21歳の男性は「楽過ぎるという感じ。すばらしい場所なので、ストレスがあまりない」と話す。


 村民の手伝いをするのも山奥ニートの大切な仕事だ。例えば、畑を荒らす野生の猿を捕獲する柵の設置作業などがある。

 この日、石井氏が近所の高齢者に車を借りて向かったのはキャンプ場だ。繁忙期のためアルバイトの依頼があり、共生舎からも人を出しているのだ。時給は850円、労働時間はおよそ3時間。しかし基本的に働きたくないという石井氏は「午前中に終わると思っていたのに午後もあって。お祭りに行く予定だったのに。仕事をしていなければ、揉め事もないわけだから」と、予期せぬ"残業"に不満を漏らす。この日のブログには「マジギレする」と怒りのコメントを書きこんでいた。

 石井氏に、仕事をしている感覚はないという。「たまに頼まれて手伝って、おばあちゃんにお小遣いをもらうような感覚。そんな石井氏の部屋の片隅には、最近始めたというギターが。「ギター弾けないニートは二流!」と笑う。


 そんな生活をする石井氏だが、2年前から交際している1歳年下の女性と11月に結婚する予定だ。「親が結婚式をやりたいという感じなので、おカネは親に出してもらう。生活費は、それぞれが自分の食べる分だけ稼げばいいかな。ただ、ニートが子どもを産んでいいのかという思いはある。子どもの人生を決めてしまうかもしれないので、子どもに迷惑がかかる。でも、ここにいるみんなは暇だから、子どもに色々なことを教えてくれるだろうし、塾も要らないし、服も村の人がくれると思うから」と複雑な心境も吐露する。

 「朝好きな時間に起きて、その日やることを決めるときが一番幸せ」と語る石井氏。「今、すごく働く人と働かない人が分かれちゃってると思う。ニートは楽しく生きるべき。幸せになる義務がある。色々な人に迷惑をかけているから、幸せになれよと思う」。


 『絶望老人』などの著作があるノンフィクション作家の新郷由起氏は、「高度経済成長期のように、稼いで税金もどんどん収めるんだと言っていた時代とは違って、働けば働くほど豊かになれないということを若者も悟ってしまっているのかもしれない。それよりも自分に合った暮らしをして、内面を充実させるというのも新しい生き方だと思う」と話す。さらに若者だけでなく、ニートの定義にあてはまらない、"高齢ニート"の存在も無視できないと指摘する。

「出世も望めない窓際族で会社が面白くない、人間関係も上手くないという人が、介護離職という大義名分で退職する。そうすれば、"親と同居する=親孝行"という考え方も根強い日本では問題視もされない。そして場合によっては介護をしながら親の年金で生活し、亡くなったら生命保険で生活、それも尽きたら生活保護ということで生きている人もいる。楽に、ゆるく生きる"高齢ニート"が増えている」(新郷氏)。


(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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