「私の問題提起によって、職務質問が減った方が良いと思う」東京都を提訴したIT企業エンジニアが訴え

 警視庁の警察官から1時間半にわたる職務質問を受け、精神的な苦痛を負ったとして、30歳の男性が訴訟を起こした。


 東京都を相手取って慰謝料など総額165万円を求める国家賠償請求訴訟を起こしたのは、都内のIT企業に勤務するエンジニアの江添亮さん。AbemaTV『AbemaPrime』では、本人に当時の状況を再現してもらった。


 先月3日、江添さんは江東区の自宅から銀座にある勤務先まで、およそ5キロの道のりを徒歩で通勤していた。服装は普段どおり、ブーニーハットを目深にかぶり、「公式なものではないが、自衛隊がよく使うシャツ」を着て、腕にはアームカバーを着けていた。

 ところが途中、警察官3人に職務質問を受け、「会社にいかなければならないから通してほしい」と訴えるも、所持品の検査に応じなければ通さないと、出社を妨害されたとしている。別の警察官からは「公務執行妨害だ」「拳銃に触った」など、"犯罪者のように扱われた"と訴えている。


 「うつむいて、下を向いて歩いてるのが怪しいと。その日は暑かったので、日よけのために帽子をかぶっていた。自分としては普段通りの恰好ですよ」。江添さんを取り囲む警察官は10人にまで増え、最終的にはリュックの外から触って中身を確認、ようやく解放されたのだという。


■私の問題提起によって、職務質問自体が減るほうが良いと思う

 「議論を好むタイプかもしれない」という江添さん。「短い文章なので、もともと知っていた」という警察官職務執行法を根拠にこう説明する。 

 「そもそも職務質問は警察官職務執行法第2条に規定されているが、停止させて質問できるとしか書いていない。逮捕した場合には所持品を調べることができるが、職務質問では検査できない。だから見せる義務はなかった。職務質問に付随して手荷物の検査を行うことができるという判例はあるが、今回はすぐに"荷物を見せていただきたい"ということだった。警察官は法的根拠を示すことはなく、"説得です"、"お願いです"と言い続けた」。


 警察官職務執行法2条は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯したまたは犯そうとしていると判断できる理由がある場合、対象者に質問が可能と定めている。あくまでも"任意"のため、拒否することは可能だ。それにしても、1時間半にも及んだ押し問答。見せてしまった方が楽だという考えは無かったのだろうか。


 「付近で事件が起きて容疑者が逃走中なので所持品を見ればわかるという説明や、この日時にこの付近で犯行予告があって、といった説明があればわかるが、周辺で事件が増加しているとか、そういうことも否定していた。過去に2度職務質問を受けたことがあるが、いずれも相当する理由があるかなという状況だったので応じた」。

 当時、江添さんがリュックの中に入れていたのは仕事で使うノートPC2台と、その周辺機器のみだったという。


 「街中を歩いていて私人に荷物を見せてほしいと言われて見せないと思う。それを見せろというなら、こちらが警察が怪しいと思ったら警察にポケットの中見せてくださいと言っていいはず。相互に行われるべきだ。本来は捜査令状がなければ行ってはいけないこと。その原則を例外的に破る感じで存在しているので、毎日あたりまえに行われていることに疑問。民事上の賠償リスクを負ってまでそうした行動をするというのは、私の感覚からするともやもやする。私の問題提起によって、職務質問自体が減るほうが良いと思う」。


■元警視庁刑事「所持品検査しなかったことで事件が起きたとしたら、皆さんは何というでしょうか?」

 元警視庁の刑事で、現役時代には1万件以上の職務質問を行ったという吉川祐二氏は、職務質問を受けた時と同じ格好でスタジオに登場した江添さんを見て、「私でも声をかけると思います」と話す。

 「全体的な雰囲気が周りと馴染んでいない。TPOにそぐわないというのが不審点と思われたのではないか。一番大きな理由は、帽子で顔が見えなかったからではないか。(江添さんが)嫌ですと言ったことが警察官の対応を大きくしてしまったのではないか。警察官の人数が増えていったというのは、不審点が膨らんだという表れ。人を見かけで判断してはいけないが、私が後輩に指導していたのは、"えっ?"と思ったら必ず声を掛けて、自分自身を納得させろ、ということ。そうやって声を掛けていくことによって犯罪抑止になる」。

 その一方、「最近では指導が行き届いて、"すみません職務質問させてください"と声を掛けるようになった。いきなり荷物を見せてくださいと言われれば嫌な気持ちになるかもしれないし、こんな入り方するかなという疑問はある」と、江添さんの話に理解も示した。


 たしかに、江添さんの言うとおり、警察官職務執行法上、職務質問で手荷物の検査ができるとは明記されていない。強圧的な職務質問に対して違法性を認めた判例もある。


 2012年に起きた神戸市内の50代男性のケースでは、車内やトランクの所持品検査には応じたものの、助手席のかばんには大人用の玩具が入っていたため拒否。最終的に中身を見せたが、県警の対応が強制的だったとして兵庫県に10万円の損害賠償を求め提訴。今年1月、神戸地裁は「男性に異常な行動はなく、免許も提示していた。罪を疑わせる具体的な事情はなかった」と指摘、「職務質問を続ける必要性、緊急性を欠き、プライバシー侵害の高い行為」と違法性を認め、県に3万円の支払いを命じている。

 吉川氏は「確かに恥ずかしい物を持っているケースもあり、嫌だと思う人もいるだろう。私も受ける側の気持ちになろうと思っていた。あくまでも任意だが、そういう形での積み重ねが世の中を平和に導いているのは事実。問題点がなければ、5分もかからない行為。ある意味、見せてしまう方がいいのではないか。警察官が職務質問中に刺されたこともあるし、警察官職務執行法の中に文字がないので、違法だという考え方はちょっと違うのではないかという気がする」と、警察官たちの心境を代弁する。


 警察庁の「平成27年の犯罪」によると、刑法犯の総数は34万6183件で、そのうち5万4428件が職務質問から検挙されている。


 「嫌ですと言われたので職務質問で所持品検査しなかった、そのことで事件が起きたとしたら、皆さんは何というでしょうか?警察官は職務質問をしなければ警察官ではないといっていいくらいに大事なもの。こうした問題を機に、所持品検査をためらってしまう風潮が出て来る方が怖いと思う」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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