"中立・公正な報道""沖縄メディアの現状"とは?八重山日報編集長「大手2紙は絶対の存在。洗脳されている部分があった」

 今、隠れた沖縄県民の声を伝えようとする小さな新聞社「八重山日報」がネット上で脚光を浴びている。挑む相手は、基地反対を唱え、沖縄でのシェア95%を占める「琉球新報」と「沖縄タイムス」の大手2紙だ。4月に沖縄本島に進出したばかりのいわば"新参者"だが"中立・公正"を掲げ沖縄メディアのあり方に一石を投じていると注目を集めている。

 8月12日、那覇市で行われた県民大会。普天間飛行場の辺野古移設反対を訴え、主催者発表で4万5000人が集まった。翁長雄志・沖縄県知事は「今日までの県民の主張はいささかの揺るぎもない正当な権利だ」と述べ、工事を進める政府に改めて抗議の意思を示した。翌13日の八重山日報は1面で「辺野古阻止で反対派大会」と報じたが、6面では「『県民大会』名ばかり政治集会」「印象操作、党派的な発言も横行」との見出しをつけた。これまでの沖縄メディアでは考えられない論調で、会場の規模から逆算して、主催者発表の参加者数についても「誇大発表か」と指摘している。

 編集長の仲新城誠氏は「沖縄の報道に関してはどうしても基地反対派の方に寄り添う。私たちには私たちの考える報道のあり方がある」と言い、記者・山下夏行氏は基地反対派の抗議行動について「これが全て沖縄の姿だと報道されるのは違う」と話す。


 8月14日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では"沖縄メディアの異端児"ともいえる「八重山日報」を通して、沖縄メディアの問題点を考えた。


■"国境の島"尖閣諸島を抱える地元紙だからこその危機感

 石垣市に本社をおく八重山日報は1977年に創刊。竹富町や与那国町など、日本の最南端にある八重山地方のローカル紙として地域密着型の記事を発信してきた。販売部数は八重山地方で6000部、沖縄本島では3000部と、それぞれ15万部以上の部数を誇る大手2紙には遠く及ばない。


 従業員は全員で29人。沖縄本島支局の間取りはわずか15坪で、営業やデスクを含め7人という少人数体制だ。配達員も足らず、沖縄本島全体に届ける体制にはなっていないのが実情だ。本島支局に配属された記者3人は全員が未経験で、目下勉強中。4月に入社したばかりという山下氏も、2紙の文体を筆写して勉強している。「2紙は"県紙"と言われるだけあって、歴史も長いし、沖縄世論の形成に時間をかけてこられた新聞社さんなので、僕たちも勉強してもっと別の角度から書けるようにならないとダメだなという気になる」と話す。

 仲新城編集長は、国境の島を抱える八重山地方の地元紙だからこその危機感があるという。「尖閣諸島は石垣市の行政区域。2010年には中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起きた。それ以降、急に石垣や八重山をめぐる情勢がきな臭くなってきた。目の前で国境が他国に踏み荒らされているのを見て、尖閣諸島について一生懸命取材するようになった。実は、それが新鮮だった。沖縄の新聞はなぜか尖閣問題についてはさほど扱わない。おそらく『波風を立てたくない』という思いがあったのでは」と話す。


 八重山日報は米軍の取材も行う。沖縄県浦添市にあるキャンプ・キンザーで3人の海兵隊員を取材する山下記者。彼らは休暇中に訪れた富士登山中に、高山病で倒れた20代の女性に遭遇。自分たちのTシャツで担架を作り、彼女を救助した隊員たちだ。米海兵隊広報課のジョセフ・バターフィールド中尉は、八重山日報について「本当にありがたい。取材に来てくれて、いいストーリーを発信してくれることに感謝している。お互いにいい関係を築いていけたら」と話す。

 同紙にコラムを寄稿してきた兼次映利加さんは「2紙が報じることだけが沖縄のメジャーな考え方だとされ、それが本土にも発信されている。自衛隊や米兵はタブーだったり、黙殺されたりしてきた。2誌とは完全に違った情報が得られる」と評価する。

■稲嶺市長「八重山日報は見たことがない」

 山下記者は「本当に公正、中立にやることだけを考えてやっている。色々な角度を深く、広く、掘っていって取材していくしかない。愚直にそれをやるしかないと思っている」と語るが、基地反対派からの評価は思わしくない。

 先月22日、沖縄県名護市辺野古にある海兵隊基地「キャンプ・シュワブ」の周囲で行われた抗議活動を取材する山下氏に同行すると、ある女性は「八重山日報はなんでこうなっちゃったのか。どこからあんな変わったの。中立っていうのが何なのかというのはやっぱり考えないと。私たち沖縄県民は全国のたった1%。この1%の人の声が全国紙になかなか載らない。首相が官邸で言うことはNHKの公共放送を使って、大手のテレビを使ってバンバン言う。運動に参加しているのは一部だが、それでも発する人の声を、それだからこそ地元紙に伝えてほしい」と苦言を呈する。

 別の男性からは「暴力団と暴力団に脅されている一般の人の間に中立はあるか?ないでしょ。アメリカは沖縄に来てどんな悪いことしてるか。あなたの娘が強姦されて殺された。それでも同じことが言えるか。頭きてるわ、八重山日報の記事には」と、「中立・公正」「客観性」をめぐって厳しい意見が飛ぶ。

 抗議活動に参加していた稲嶺進・名護市長は、メディアの報道が世論の形成に影響を与えているのではないかという指摘に対し、「何を言っているのか。違う。地元の新聞は地元のことを詳しく知らせるのが、当然の責任だ」と語気を強めて反論。八重山日報についても「いやいや、何も感じない。僕は何も読んだことないから。沖縄でも発刊されたということは知っているが、紙面を見たことがない」と冷ややかだった。


■大手2紙と八重山日報の紙面を比較してみると?

 沖縄タイムスの石川達也・編集局長は「戦時中、新聞は大本営発表を県民に伝えていた。その反省のもとに、改めて県民に寄り添う、県民の思いに立った新聞を作っていこうという創刊メンバーの思いがあった。県民を犠牲にするような戦争にはメディアは加担しない。我々が70年近く新聞を発行しつづけているのは、読者である県民の思いを伝え、信頼されているからだと思う」と話す。

 一方、基地反対に偏っているのではないか?といった声や、大手2紙の論調が似通っているとの指摘については「そういう見方をされている方も確かにいらっしゃると思う。ただ我々としては、賛否両論ある問題については基本的に両方載せるように努力はしている。それぞれのスタンスによって、見方や受け止め方は大きく違うと思っている」とコメントした。


 実際に、2紙と八重山日報の紙面を比較してみる。


 今月5日にオスプレイが墜落した際の翌日の紙面は、沖縄タイムスが1面トップで「オスプレイ豪沖墜落」「欠陥機 沖縄飛ぶな」「怒る住民 配備撤回要求」。琉球新報も同様に「事故再発に怒り」「墜落またか」と厳しい論調で報じている。一方の八重山日報は、「住民総出 盛大に奉納芸能」と、地元・八重山の豊年祭を大きく扱い、オスプレイ墜落については1面に掲載されてはいるものの、小さな扱いだった。

 

その理由について仲新城編集長は「国外で起きた事故なので、我々が直接取材することはできず、通信社の配信に頼っている。独自に検証するにも、未熟というか、新参者の記者もいる中で、そこまではできない」、また「"欠陥機〟という言葉だけが先走ってしまっているが、印象操作みたいな部分がある。しかも訓練という、普段やらないような過酷な環境下での事故。普通に飛んでいて、落ちたというものと同列には論じられない」と話す。

 これに対し、琉球新報の元論説委員長で、沖縄国際大学の前泊博盛教授は「新聞は距離感が紙面に出る。オスプレイの事故率が非常に高まってきているので、我々は"欠陥機"という表現を使う。"墜落"を"不時着"と表現するなど、日本のメディアは大本営発表と同じ報道をしている」と主張。

 ジャーナリストの堀潤氏はNHK時代に沖縄を取材した時の経験について、「若い子たち、特に高校生たちから『基地問題についてはそんなに心配していない』という声が聞こえてきたので、こういう声もあるんだと思って東京に映像を送った。しかし、一切オンエアでは扱われなかった。『堀、気持ちはわかるけれども、今日は"沖縄怒りの日"だから。まあ、この声についてはいつか機を見ようや』と言われた。あるメッセージ性を出すとなった時に、それ以外の意見を枝葉だと決めてしまったら、もうそういう声は出てこない。そういうことへの違和感なのではないかと思う。僕もそれで自由になる必要があるなと思ってNHKを出た。自分一人で判断できる環境と組織とでは変わってくると思うので、論調を合わせていかなければいけない事情もあるのではないか」と指摘したが、前泊氏は「是々非々で書く。主張したくても事実がなければ書かない。型にはめていくような報道の仕方は避けている」と、一面的な報道との見方を否定した。

 また、山下記者が取材し、「一般車両の通行妨害も ゲートふさぎ一時騒然」と八重山日報が書いた辺野古反対派による"人間の鎖"抗議活動。仲新城編集長は「わざと2紙が書かなさそうなことを書いたというわけではない。現場で見たままありのままを記事にしただけ」と言う。一方の沖縄タイムスは「2000人の鎖」「戦争絶対させない」「新基地建設止める」「手から手 民意結ぶ」「反辺野古 決意固く」。琉球新報は「つなげ新基地ノー」「平和な島へ願い」「連帯 思い一つに」「新基地作らせぬ」「強行阻止できることで」との見出しが並ぶ。両紙とも、写真点数も多く、かなり大きな扱いをしていた。

 仲新城編集長は「物事には多面性があって、違う方向から光を当てると違う面が見えてくる。私たちの視点では、基地反対ということであれば、何をしても許されるとか、何もかも正義だという風潮が実際に存在している中で、住民生活にも支障が出ていることもクローズアップしたいという思いでやっている」と説明した。


■琉球新報元論説委員長「弱者に立つという前提が重要」

 2紙とは異なる紙面作りに取り組む八重山日報に対し、Twitter上では「八重山みたいな保守系の新聞社も作ってくれや」「やっと沖縄に保守の新聞ができました。支援したい」など"保守の鑑"と言わんばかりの賞賛が飛び交う。また、番組には「沖縄で初めて『保守系』の新聞を読んだという気持ちになった」「沖縄で、唯一真実を書いている新聞社!あとは偏向機関紙レベルで、とても新聞とは呼べないゴミレベル!」といったコメントも寄せられた。


 仲新城編集長は「保守だと言われるが、我々は自分たちから、保守だとか革新だとか言ったことは一度もない。あくまでも公正・公平。意見が分かれる問題に関しては両論併記。"ど真ん中"というつもりでやっている。どちらが正しいか、筋が通っているかは、読者に判断してもらうということを貫きたい」と話す。「新聞にも意見があるのは当然のことだから、色々なメディアがあるのは当たり前。それがただちに悪ではないし、我々だって見る人が見れば偏向報道に見えるだろう。沖縄の問題は、ある一つの意見だけが非常にクローズアップされてしまって、その反対の意見があたかも存在しないような扱いを受けていることだ」(仲新城編集長)

 一方の前泊氏は、八重山日報の紙面について「保守系。基地を容認する人が求める意見を中心に載せていく方針を持っているような気がする。それに対し2紙は護憲。日米安保に対しては懐疑的。自衛隊についても憲法違反であるというスタンス」と話す。


 前泊氏の出身である琉球新報は、明治時代の創刊だ。「当時は本土との同化政策の片棒を担ぎ『くしゃみをするにも日本語で』というような論説を掲載した時期もある。戦後は米軍の宣撫工作紙、つまり宣伝として始まった。最初の社説では『米軍に協力することが沖縄にとって重要だ』と書いた。しかし、ひどい結果になった。中学生が轢き殺されても裁判すらできない。民主主義だ、世界の警察官だと言っていたのに、沖縄でやっていることは全く違うじゃないかと反発が出てきた」(前泊氏)


 そして、多くの地元紙が創刊される中、論調を変化させながらも2紙が生き残ってきた背景について「戦後、たくさんの新聞が生まれた。保守、革新、様々なものが生まれて、生き残ったのが2紙。結果としてアメリカ軍に対して批判的なスタンスになっているのはなぜかというと、この70年間の積み重ね。人間としての理念、哲学を問われるから、売るためだけの記事を書き続けるのは、無理。苦しくなってくると思う。スタンスとして、国と県なら県に、県と市町村なら市町村に、市町村と住民なら住民に。たとえ住民が間違っていたとしてもまずはより弱き者の立場に立つところから始まる。それを捨ててしまうとおかしくなってくる」と説明した。

 また、八重山日報の"米軍のいいことも報じる"というスタンスについては、「もちろんそれが大きい話の場合は報道せざるを得ない」としながらも、「米兵による事件・事故はたくさん起こっていて、被害は非常に大きい。それらがつぶさに報道されているかと言えば、そうではない。むしろ踏み込みが足りないくらいだ。そんな状況下で、善行をもっと報道しろというのはおかしい」と指摘した。


 これに対し、仲新城編集長は「どちらが強くて、どちらが弱いかを判断しているのはメディア。強者の声だとしても、住民にはその主張が届いていないかもしれない。両方の意見をきちんと同じスペースで発信して、判断は読者にしてもらうのが基本にあるべきだと思う。米軍は強者だとして彼らの言い分を報じない、プラスの面も報道しないという意味では、米軍も弱者なのかもしれない」と反論した。


■「経営状況としてはかなり厳しい。今の部数では将来的にやっていけない」

「私が若い頃は、まだインターネットが普及しておらず、情報源は新聞だけだった。しかも沖縄にいると2紙ばかりで、本土紙は現物を見たことはほとんど無かったので、他の新聞がどういう論調で、どういう取材をしているかも知る術がなかった。2紙が絶対の存在で、そこに書かかれていることが唯一、間違いの無い事実。それ以外のことは考える必要がないと。言い方は悪いが、洗脳されている部分があったと思う。本土のメディアが取り上げたからといって、沖縄では影響力がない。違う意見が行き場を失ったり、声を上げることを恐れたりしている状況があった」と振り返る仲新城編集長。

 「今回、初めて八重山日報を手にした。同僚の先生方にも聞いたが、知らない人も多かった。テレビが取り上げるので注目されているように見えるかもしれないが、実は八重山日報はあまり注目されていない。より部数の大きな八重山毎日新聞も紹介されないとアンフェア。これからどうやって知名度をあげていくかが大事だ」と話す前泊氏。「今、新聞経営はとても大変だ。2紙も全国紙も、部数がどんどん減っている。とくに若い世代が新聞を読まなくなったと感じる。ただ、ネットで見て新聞のニュースを見てはいるので、大量生産型の媒体からネットメディア、スマホを使うのも必要だ。私も新しい新聞を作りたいと思っているし、色んな人が模索している。論調がぶつかり合う場として、紙は難しいと感じている。八重山日報が不都合な存在だとは思わないが、生き残れないと思う」と指摘。その根拠として、「八重山日報は産経新聞の社説を載せている。自分たちの主張は何かというのをやらないと、新聞としては成り立たない。これで地元紙と言えるのか。論説を持たないと消えていく」と厳しい口調で批判した。

 前泊氏の指摘に対して仲新城氏は、「論説が全然ないということはない。コラムとか解説記事の形で書いている」と反論。「ぶっちゃけた話をすると、確かに全国からの色々な支援や励まし、ラブコールがあって本島に進出したが、経営状況としてはかなり厳しい。今の部数では将来的にやっていけない。そういう中で人材をどうやって集めていくかという問題もあって、定期的に自分たちの社説を書いていくところまで手が回りきれていない」と説明した。


 さらに仲新城氏は「詳しいことは知らないが」と前置きした上で、「4月から沖縄本島でも印刷を委託して、本島でも朝刊を配るようになった。これは分かっている限りでは半世紀ぶりくらいの進出。ただ、配達員が不足して、社員が配っている苦しい状況。そういう中で、沖縄タイムスが各販売店に『八重山日報の配達の依頼が来ても受けるな』などと言ったという話を聞いている」と示唆した。


 激しい地上戦が繰り広げられ、1972年に本土復帰して以降も多くの米軍基地が残り、日米同盟を継続する上で大きな負担を強いられてきた沖縄。その歴史を背景に独特な言論空間が育まれてきた沖縄で、八重山日報は生き残っていけるのだろうか。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


▶AbemaPrime『〝沖縄の異端児〟八重山日報が本島進出!既存メディアに物申す!』は、9月28日(木)21:00〜リピート放送!

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