囲碁・将棋 人間対AIは対決から共存へ バックギャモンプレイヤー「人間も成長できる」

 AIを活用すれば、人も成長できる。各種分野での活躍が目覚しいAI(人工知能)だが、将棋・囲碁といった娯楽の世界においては、「人間対コンピューター」という構図が続いてきた。だが近年では、囲碁のAlphaGo(アルファ碁)や、将棋のponanza(ポナンザ)が、相次いで棋士界のトップに勝利し、AI優位を決定付けた。これと同じ状況が1990年代に、バックギャモンでも起きていた。今後、AIと知的ゲーム、人間との関係はどうなるのか、トッププロに今後の行方を聞いた。

 欧米を中心に人気のバックギャモンは、15個の駒をどちらが先にゴールさせられるかを競う2人用のボードゲームだ。毎年世界大会も開催され、プレイヤー人口は日本で約20万人、全世界で約3億人とも言われている。そんなバックギャモンの世界でAIが出始めたのは、1990年代前半だ。世界で約100人いるプロの中で世界ランキング1位の望月正行さんは「当時はそれほど広まっていなかった」と振り返る。「そのころは、まだインターネット黎明期。日本にも伝わっていなかった。フロッピーディスクに入れて『こんなソフトがあるよ』と共有するような時代だった」という。ただ、そのころのAIでも、人間のトッププレイヤーと同等の実力を持っていた。


 インターネットの普及につれて、AIもより多くの人に知られるようになった。「最初のころは人間の方が強いはずだ、という人も多かったですが、いつしかそういう人たちの声は小さく、数も少なくなりました」。運の要素もあるバックギャモンだけに、目の前の勝負だけなら人間が勝つこともある。ただ、数をこなすほどAIの勝率は確実に高くなっていった。また、非公式ながらプロのプレイヤーが何千、何万と対戦していたのも関わらず、「自分の方が強い」と名乗り出る人もいなかった。日本で囲碁・将棋のAIが話題になる20年近く前に、バックギャモンの世界ではAIと人間の勝負は、事実上終わっていた。

 ここからAIの開発者は、より強いAIを作ることをしなくなったと、望月さんは説明した。「ある(強さの)ラインを超えてしまうと、開発者や企業がお金を投資してまで強いものを作るモチベーションがない。さらに強くしても売れるわけではないので。だから、その後は人間のプレイヤーによって使いやすい、たとえば通信簿をつけてくれるような、そういう方向に進化している」と明かした。AIは登場した当初から最善手を出してきた。ただ、人間のように「なぜこの手なのか」を説明することはできなかった。一方、人間は誤った手を教えたり、正しい手を誤った説明で伝えたりすることもあった。今後のAIは、最善手を正しく教えるものへと進化していくのだという。望月さんは、囲碁や将棋のAIも、バックギャモンと同じ道を進むと見ている。


 将棋界では、4月23日にAbemaTVで放送された、14歳の中学生・藤井聡太四段と不世出の天才・羽生善治三冠の対局が大きな話題になった。実は2人とも対局の前後に、AIについて示唆する場面があった。


 藤井四段「(ソフトは)勉強に使うこともあります」

 羽生三冠「昔の経験が生きない。将棋がどんどん変わっていく」


 さらに、例年行われている将棋界で活躍した人を表彰する「将棋大賞」の授賞式では、新手や定跡の進歩に功績した人(戦法)に贈られる「升田幸三賞」の選考理由で、代表者からこんな発言があった。


 代表者「(選考中に)ソフトから(生まれた)の手ではないかという意見も出た」

 これについても、望月さんの発言と重なる部分は多かった。「バックギャモンにおいては、1970年代の本などは意味がなくなってしまっている。AIは固定概念がないので、人間がまったく思いつかない手をやってくる。最初はバグだろうと思われても、よく見たら理にかなっていた」。何億人とプレーしてきても、人間の思考はさほど大きくは変わらない。その思考を覆す新手は、AIだからこそ生み出せたわけだ。


 ここまで来ると、もはや人間が囲碁・将棋やバックギャモンをする意味にも疑問符がつきそうなものだが、そうではない。AIの誕生と進化は、人間の進化も呼び起こしたからだ。「最初のAIが出た時、すでに人間のトップレベルと同等だった。でも、最初のAIよりはるかに強いAIが数年後に登場した時、人間はそのAIともいい勝負ができていた。つまり、その数年間で人間の実力が飛躍的に高まった証拠」といい、「夢のような数年間だったという人もいる」と笑顔で説明した。


 もはやバックギャモン、囲碁・将棋という、無数の選択肢がある知的ゲームにおいて、人間はAIにかなわない。それでもAIを活用することで、今まで眠っていた人間の能力が呼び起こされたり、限界と思われていたところにまだ伸びしろがあることに気付いたりすることもできる。勝ち負けではなく、共存が求められる時代に既に入っている。「ラーニングツールとしても進化すると思います。相性のいいプレイヤーをマッチングするシステムなんかもできたら、みんな幸せになるかもしれないですね」。今後見られる人間同士の戦いが、これまで以上にハイレベルなものになることは間違いなさそうだ。

(C)AbemaTV

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