ライトノベル業界を席巻する異世界転生ブーム 書店員がトレンドの変遷を解説

 アニメファンやゲームファン向けの小説・ライトノベルにおいて、"異世界転生"というジャンルが流行している。2016年には異世界転生モノの大人気ライトノベル『この素晴らしい世界に祝福を!』や『Re:ゼロから始める異世界生活』などがアニメ化され、普段、ライトノベルを読まないアニメファンからも絶大な支持を集めた。

 以前のライトノベルといえば、学園を舞台に、冴えない男子がなんらかの理由で美少女たちに囲まれた生活を送ることになる"学園もの(部活もの)"が人気に。さまざまな作品がアニメ化されたことで、ライトノベル="学園もの"というイメージが定着していた。しかし、ここ数年で出版されたタイトルにおけるジャンル比率は圧倒的に異世界転生モノが占めているという。


 書店でライトノベル担当スタッフとして働きながら、自身もライトノベル作家を目指して投稿を続ける店員さんに、ライトノベルにおける人気ジャンルの変遷について聞いてみた。


■ライトノベル、人気ジャンルの変遷

 「私は『ロードス島戦記』というファンタジー小説を友達に勧められて、ライトノベルを読み始めました。ちょうど角川スニーカー文庫というライトノベルのレーベルが出来たころで、角川文庫から出ていた『ロードス島戦記』も中高生向けのスニーカー文庫へとレーベルが移されました。

 同じ頃に角川系の富士見ファンタジア文庫というレーベルも創刊され、普通の小説とは違うアニメちっくな表紙の小説レーベルが次々と誕生したことで、そういった小説がいつの間にかライトノベルと呼ばれるようになっていた気がします。90年代前半のライトノベルは、『ロードス島戦記』のようなファンタジー作品から、SF、学園ものと様々なジャンルが混在していましたが、90年に刊行がスタートした『スレイヤーズ』がヒットしたことでライトノベルに新しい風が吹いたように思います」


 『スレイヤーズ』はアニメ化もされ大ヒットし、劇場版や続編が何作も作られた人気作だが、はたして『スレイヤーズ』はライトノベルにどんな風を巻き起こしたというのだろうか。


 「それまでもさまざまな表現方法にチャレンジされている作家さんがいましたが、『スレイヤーズ』の神坂一さんは、キャラクターにボケやツッコミをやらせるなど、作品にギャグマンガのようなテイストを取り入れたり、マンガで使う擬音(ドカーンなど)を積極的に使ったりと、新たな表現方法をいくつも試され、ライトノベルを視覚的な小説へと変えていった第一人者だと思います。

 さらに、アニメの脚本家として活躍されていた、あかほりさとるさんが、キャラクターの掛け合いによるセリフの面白さを重視し、描写を抑えたアニメ脚本のような文体で、それまで小説を読んだことがなかったアニメファンから『読みやすくて面白い』と支持されるようになり、あかほりさんはアニメと連動したシリーズを次々と立ち上げて、90年代中盤に一大ブームを巻き起こしました」


 神坂氏やあかほり氏によって、ライトノベルならではの表現が生み出された後、どういった経緯から、冴えない男子が女の子に囲まれて生活する学園ものが主流になっていったのか。


■『ブギーポップシリーズ』『キノの旅』が大ヒット

 「その過程をお話するにはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のブームについてもお話する必要があると思います。90年代中盤から後半にかけて『エヴァンゲリオン』がブームになり、鬱屈とした登場人物の描写や、作品内にちりばめられた謎が話題を呼びます。私は当時、書店でバイトをはじめたばかりでしたが、『エヴァンゲリオン』の研究本が次から次へと棚に並ぶ様子を覚えています。

 ライトノベルにもその波が訪れたようで、あかほりさんが描いていたアニメちっくな作品から、登場人物の内面を掘り下げたり、日常の裏に潜む陰謀論のようなものを描いたり、主人公とヒロインが特別な存在と位置づけられ、二人の感情が世界の運命を左右する、といったうよな作品が流行るようになります。

 上遠野浩平さんの『ブギーポップシリーズ』や時雨沢恵一さんの『キノの旅』とか、電撃文庫で出版されていた作品が大ヒットし、当時のファンはこういった作品を"セカイ系"と称していたと思います。私自身は、"セカイ系"というジャンルの定義をそこまで詳しく知りませんが、"自分(もしくは自分とヒロイン)と世界の関わり方"とか、そういう難しいテーマだった気がします」


 文学的な様相を呈していったライトノベル。そこから何故、明るい学園ものが人気を博すようになったのか。


 「そもそも『スレイヤーズ』のような和製ファンタジーや、"セカイ系"と呼ばれる作品がヒットしている最中も学園ものは一定の人気がありました。ライトノベルの想定読者である中高生にとって学校は身近なものですしね。

 一介の書店員の私には、正しい分析ができているかは分かりませんが、世紀末が過ぎて社会を覆っていた不安なムードが落ち着いてくると『エヴァンゲリオン』や"セカイ系"のブームも一段落したような気がします。そんな中、2003年に『涼宮ハルヒの憂鬱』というライトノベルが刊行され、アニメ化により、人気に火がつきました」


 "セカイ系"のブーム後のライトノベルの流行についてこう続ける。


 「『涼宮ハルヒの憂鬱』の作品自体は、SF的な要素も強いし、"セカイ系"的な要素も含んでいると思うのですが、学校生活そのものを冷めた目線で見ている語り手が、エキセントリックな主人公の女の子に振り回されることで、他のヒロインや友人たちと、期せずして学園生活を楽しむという展開に注目が集まったように思います。

 『ハルヒ』以前から学園ものは一定の人気がありましたし、90年代後半から2000年代初頭に流行った美少女ゲームの影響で男の子ひとりにヒロインが複数という学園ものは、すでにジャンルとして確立していたと思います。しかし、『ハルヒ』のヒットで、『ハルヒ』の劇中に登場するようなちょっと変わった部活を舞台にした作品が、雨後の竹の子のように増えて行ったのは事実です。

 『可愛い女の子たちに囲まれて楽しい高校生活が送れたら』というのは男子の夢ですし、この頃になると私のように80年代末からライトノベルを読んでいる層はいい大人になっているので、『もし生まれ変わってあんな高校生活を送れたら』と妄想しながら、学園もののライトノベルを読んでいましたね」


 男性読者の夢を描いた学園ものライトノベル。一時は、学園もののライトノベルが次々とアニメ化されていたように思われるが、そこからさらに"異世界転生"というジャンルにシフトしていった理由はなんだったのだろうか。


 「読者としての意見を言わせていただくと、読者が学園ものに飽きてしまったからではないでしょうか。一時期は本当に学園ものばかり出版されていて、それぞれの作品に個性はありましたが、とにかく複数のヒロインから好かれて、最終的に誰かを選ぶという展開なので、パターンは限られてきますし、人気が出たヒロインの設定は踏襲される傾向にあるので、同じようなヒロインばかりになっていったのも残念でした。

 学園ものに陰りが見え始めた頃に、私たちライトノベルファンの間で話題になりはじめていたのがネット小説です。ネット小説の文化はインターネットの黎明期からありましたが、ライトノベルが学園ものばかりになり違ったジャンルの小説が読みたくなっていたころ、ネット上で当時別名義で活動していた川原礫さんの作品が面白いと耳にして読むようになりました」


■『小説家になろう』に投稿された小説が人気に

 「川原さんはMMORPG(オンラインゲーム)の世界を舞台にした小説を書かれており、元々ファンタジー小説やロールプレイングゲームが好きだった私は、川原さんの作品に熱中しました。その後、川原さんがネットに連載していた作品を改題した『アクセル・ワールド』で電撃文庫からデビューすると、過去にネットで連載されていた『ソードアート・オンライン』も出版され、ものすごいブームを巻き起こすことになります。

 この頃は、学園ものに飽きたライトノベルファンのニーズを満たそうと、ライトノベルが好きな作家志望者がファンタジーもののネット小説を次々と発表するようになっていて、今やライトノベル業界とは切っても切れない小説投稿サイト『小説家になろう』において、ファンタジー小説やオンラインゲーム小説がどんどん投稿され、人気を博しはじめます。

 他にも川原さんがデビューした年には、橙乃ままれさんがネットの掲示板で『まおゆう魔王勇者』というファンタジー作品を連載したり、翌年には『小説家になろう』でオンラインゲームを題材にした『ログ・ホライズン』の連載を開始したりと、後の"異世界転生"ブームに続く流れが作られて行きます」


 学園もの人気の反動からネットを中心にファンタジーやオンラインゲーム小説が流行り始めたとのこと。しかし、ファンタジーやオンラインゲーム小説と"異世界転生"は少し異なる気もするのだが……。


 「『ソードアート・オンライン』や『ログホライズン』といったオンラインゲーム小説は、主人公がファンタジーオンラインゲームの中で活躍するというお話です。どちらの作品もトラブルでゲームの世界から出られなくなるという展開なので、ある意味、"異世界モノ"と呼ぶことはできるかもしれません。両作品ともに主人公はゲームのプレイヤーとして超一流ですが、現実では心に問題を抱えていたりもします。心に問題を抱えている主人公が得意としているゲームの世界に閉じ込められたことで活躍する、という設定は、私のように高校時代、クラスで目立たない存在だった者にとっては憧れる展開です。


 そういった憧れをより、非現実的な娯楽にしたものが"異世界転生"モノなんです。"異世界転生"モノというジャンル事態は、古くから存在しますし、過去にも『ゼロの使い魔』など異世界転生をテーマにしたライトノベルがヒットしています。


 しかし、ネット小説発の"異世界転生"モノは、これまでよりもサクセスストーリーとしての側面が強くなっており、オンラインゲーム小説のように何かしらの問題を抱えた主人公が事故などにより死亡した瞬間、ファンタジー世界に転生し、現実世界で得た知識を活用したり、もしくは異世界に転生する過程で身についた特殊な力などで、大活躍するという展開が支持されています」


 異世界転生モノは、環境が激変することによって始まるサクセスストーリーということか。


 「始まるというか、転生した時点でサクセスに成功していることがほとんどです。現代人なら誰でも知っているような知識だったり、アニメファンやゲームファンなら誰でも知っている知識が武器になったり、もしくは転生時に勝手に身についた能力で大活躍したりと、転生することで努力することなくヒーローになるのが異世界転生モノの王道であり、そんな主人公に読者は憧れつつも感情移入して小説を読み進めます。荒唐無稽ではありますが、もし自分が異世界に転生して、今のままでヒーローになれたら……と想像するのは楽しいですし」


 転生したことにより、異世界でヒーローになった普通の男の子に感情移入しながら読むのが異世界転生モノの魅力ということだが、先に話題に上がった学園もののように飽きられてはいないのだろうか。


 「正直、異世界転生モノに飽き始めているライトノベルファンはいますね。でも、多くの作品がアニメ化される『小説家になろう』を見ると依然として、異世界転生モノは人気なようですし、学園ものが恋愛一辺倒になりがちだったのに対し、異世界転生モノは、恋愛もあればバトルもあり、最近ですと現代の経済学を持ち込み異世界を改革する話や、異世界で料理店や居酒屋を営業する話など、変わり種も増えてきていますからね。バラエティが豊かな分、もう少しこのブームは続くと思いますよ」


 まだまだ異世界転生モノのライトノベルブームは続くと語る書店員。調べてみると、書店員が語るように、異世界転生モノにはバラエティ豊かな作品が存在する。


 2017年中には、異世界の料理店を舞台にした『異世界食堂』と、異世界の居酒屋を舞台にした『異世界居酒屋のぶ』のアニメが放送されることが決定している。今後はこういった変わり種の異世界作品がアニメ化され、もうしばらくトレンドが続きそうだ。


AbemaTVの深夜アニメチャンネルで「涼宮ハルヒの憂鬱」を観る

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