「医師でCGクリエーター」異色の31歳が危惧する東大と藝大の"距離"

 イノベーター達を表彰するイベント『WIRED Audi INNOVATION AWARD 2016』。表彰式の会場は赤一色で統一され、入口はまるでスパイ映画に出てくる秘密基地だ。授賞式にはメタルギアシリーズの生みの親である小島秀夫氏、映像作家でDOMMUNE代表の宇川直宏氏など、そうそうたる顔ぶれが出席、クリエーター達のハイセンスな社交場になっている。


 その中には、瀬尾拡史氏の姿もあった。1985年生まれの31歳。東大医学部の出身で、医師免許を持ち、CGクリエーターでもある異色の人物だ。2010年に医学部史上初の東京大学総長大賞を受賞、卒業後の2013年には株式会社サイアメントの代表取締役に就任している。目標は医療とCGの世界の橋渡しをする通訳者のような役割を担うことだ。


 AbemaTV『AbemaPrime』の「2021 未来のテラピコ」のコーナーではそんな瀬尾氏を直撃。自身について瀬尾氏は「医師で、かつCGができる、絵がかける人で、それを職業にしている人は、ほぼいないです」と語る。


 代表作は『心臓シミュレーター』。物理学、工学、医学、生理学の様々な知識を結集、心臓を17万個以上の小さな四面体に分解、「有限要素法」という方法でスーパーコンピュータが計算、再現した人間の心臓のCGだ。瀬尾氏は今までのCGとの違いを「"心臓っぽいCG"はあったが、これはスーパーコンピュータ『京』を駆使してシミュレーションされたデータを忠実に再現したCG」と説明。まだ試験的にだが、手術をする前のシミュレーションへの活用も行われているという。


 このほか、自身の気管支模型を使った「気管支でGO」というCG作品も、医療とCGの橋渡しをするものだ。動き方に制限がある実際の気管支鏡のように、医師が訓練できるのだ。マウスとキーボードだけで操作をし、気管支内の空間感覚をつかむ練習ができる。高いコンピューターを使わずに普通のパソコン実現できたこともポイントだ。


 最終的に目指すのは「これ医療CGだよね、と思われたくない。当たり前過ぎて、そういうワードを使わないくらいの世界」。


 「たかがCGだとなりがちだが、未来を変えられると思う。患者さんの治療成績を上げるとか手術ミスが減らすことがCGでできると思っている」と話す。


■ノーベル賞大隅教授の資料や、木村カエラのMVも手がける

 昨年、瀬尾氏の元にある依頼が届いた。それはノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典氏からのもので、ノーベル賞のレクチャーで使う、オートファジーの研究成果を説明するためのCGの作成依頼だった。


 「何年か前に"将来、ノーベル賞の映像とかできたらいいなぁ"と勝手に周りに言っていた時期があって。"あ、こんなに早く来たか"みたいな、うれしいなという感じでした。サイエンス系のCGをやっている者としては、一番の晴れ舞台ですよね。アカデミー賞よりも晴れ舞台。ノーベルレクチャーで流れることは」と連絡を受けた時の喜びを振り返る。


 ただ、1か月以内の短期間で仕上げなければならない状況で、設計図ができているわけでもなく、一から全て考えなければならず、朝から晩まで作業を行ったという。


このほか、瀬尾氏は木村カエラさんのミュージックビデオ制作を手がけたこともある。カエラさんをCTで撮影し、約400枚の画像から内臓と骨格をCGで再現した。


■東大と藝大の"距離"に危機感

 そんな瀬尾氏が危惧するのは、ある種の"誤解"だ。「3Dプリンターの性能がどんどん上がっているので、臓器の模型のような物がどんどんきれいに完璧なものができてくると思われているが、データがない限りは意味がない」という。つまり、印刷機の性能が上がったら勝手に良い小説が生まれると言っているのと同じような誤解なのだという。


 また、瀬尾氏のように、異なる領域で専門性を持つ人材が少ないことについても問題視している。「東大と藝大が距離は近いのに分かれているから。アカデミックと芸術のトップが離れているのは日本くらい。ハーバード、スタンフォードには美術系がある。ダ・ヴィンチも絵を描くのが上手くて解剖もやっていた。日本では研究をする人は研究をする、芸術をする人は芸術をすると分かれているので、どちらも学ぶことが難しくなった」と指摘している。


(C)AbemaTV

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