KEN THE 390が語る日本語ラップシーン「ヒップホップはずっと面白い。ただ待ってたわけじゃくて、鬱屈した10年間をサバイヴしてきた」

2016年を締めくくるヒップホップのお祭り「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」が、AbemaTVで12月31日の20:00に放送される。おなじみ「フリースタイルダンジョン」のモンスターたちはもちろん、日本全国の猛者たちが東西に分かれて熱いフリースタイルをバトルを繰り広げる。今回AbemaTIMESでは、東軍のメンバーにして、レギュラー放送では審査員として活躍しているKEN THE 390に直撃インタビューを敢行。MCバトルを取り巻くあれこれを訊いてみた。


「ヒダ(HIDADDY)さんとかERONEくんとかと戦いたいですね」

――KEN THE 390さんは「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」に東軍のメンバーとして出演しますね。

KEN THE 390:出演を知った時は「マジか」って感じでした(笑)。「フリースタイルダンジョン」に関してはどっちかっていうと視聴者目線な部分があって。今までは「モンスターズウォー」みたいな特番も「やべ〜、楽しみだな〜」くらいの気分だったんですよ。でも今回はすでに毎日が憂鬱ですね。

――「東西!口迫歌合戦」にはどんな意気込みで臨みますか?

KEN THE 390:せっかく出るからいい試合して勝ちたいですね。負けるとチームメートに迷惑かかりそうだし。

――西軍で戦いたい相手と、逆に戦いたくない相手を教えてください。

KEN THE 390:やるんだったら先輩がいいかな。例えばKOPERUみたいな後輩相手に先攻で「てめーのラップは……」みたくひどいこと言ったら、自分の中で何かが崩れそう(笑)。先輩だったら胸を借りるという体で全力になれる。ヒダ(HIDADDY)さんとかERONEくんとかと戦いたいですね。

――今年の「フリースタイルダンジョン」で印象に残ってるバトルやモンスターを教えてください。

KEN THE 390:GADOROとMr.Qさんの戦いがすごく印象に残ってますね。

――GADOROやじょう、MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻ら若いMCが台頭してきています。

KEN THE 390:うん、勢いすごいですよね。本当にみんなめっちゃうまい。「戦極MCBATTLE」を観てても、若い世代と30代前後の人たちの戦いになってるところあるし。トーナメントになるとスタミナ的なところでまだ年長者に分があるけど、裂固とかLick-Gとか、下の子たちは伸び率とんでもないんですよ。

上の人たちもうまくはなってるけど、みんなある程度スタイルが固まってますからね。そこへいくと若い子は今まさにうまくなってる最中。T-PABLOWなんて最初の頃と別人みたいなラップしてるじゃないですか。しかも彼はそれが楽曲にも反映されてて。人の成長過程が見られるのはすごく面白いですね。

――「フリースタイルダンジョン」の審査員としてどんなことを意識していますか?

KEN THE 390:僕は審査員というより、解説者という意識が強いかもしれない。例えば野球でピッチャーが球投げてバッターが空振りしたら、その事実は見てれば誰でもわかるわけですよ。でも配球の妙とか、「ここでチェンジアップを投げたから凄かった」みたいな、裏にある心理戦や攻防、技術はOBが解説してるでしょ。僕はまさにそういう立ち位置でやってて、モンスターやチャレンジャーが“どう凄かったのか”をみんなに伝えられたらいいなと思ってますね。

――そこはメディアの中の人がより、ケンさんのような実績のあるラッパーが言ったほうが説得力がありますよね。

KEN THE 390:いやいや、俺だって「そんな踏めんのか」とか思われてるはず(笑)。リアル解説は確かに難しいかもしれないけど、流行語大賞みたいな感じで「パンチライン大賞」をやったら面白いんじゃないかな?

――それはグッドアイデアです!

KEN THE 390:やっぱラップはパンチラインじゃないですか? ベストアーティストとかも大事だけど「今年一番ヤバいラインはこれだ!」みたいなことをやると、みんなの聴き方が変わると思うんですよ。「ヤバいパンチラインが評価の軸なんだ!?」って。そうするとラッパーたちもそこを狙っていくと思うし、リスナーもより意識的になる。それでそれをアワードにして表彰したらめっちゃ面白いと思うんです。

――ラップはパンチラインが一番重要だと思いますか?

KEN THE 390:僕はそう思います。パンチラインのためのライムだし、韻を踏んでなかったり、いいフロウで言わないとパンチラインにならなかったりする。もちろんいろんな要素がそれぞれが大事だけど、僕はパンチラインで聴いちゃいますね。あとこの人が歌わないとパンチラインにならないっていうのが、すごくヒップホップ的だと思うんですよ。

例えばMr.Childrenさんの曲は誰が歌っても良い曲ですよね。それは彼らが普遍的なことを歌ってるから。でもパンチラインはラッパーのキャラクターも背負ってるとこもあって、般若さんが言うから、漢くんが言うから良いみたいなのがある。例えば「お母さんに感謝」ってラインは僕よりも、実際に迷惑かけてきたっぽい人が歌ったほうがより響くでしょ(笑)。それがラップだと思うんです。


「勝ち上がりの方法としてバトルが新鮮だった」

――Zeebraさんは「フリースタイルダンジョン」が始まってヒップホップの世代間断絶がなくなったと言ってました。ケンさんがDa.Me.Recordsで活動してた頃はまさに断絶の真っ只中でしたよね?

KEN THE 390:当時は自分たちが参加してるという意識がかなかったんですよ。ヒップホップシーンっていうのは先輩方がやってるものっていうか。

――ではみなさんは当時どんなふうに活動してたんですか?

KEN THE 390:よくわかんなかったですね。これは完全な俺らの被害妄想なんですけど、誰かがCDデビューすると「◯◯◯の後輩だからでしょ」「◯◯で働いてるからじゃん」って思ってた。当時の俺らにはツテもないし、誰にお願いすればCDを出せるのかもわからなかった。本当にCDを出したいなら色んなところに働きかければ良かったんだけど、当時はあまりにもチャンスがなかったから穿った物の考え方になってましたね。5年くらい誰かの下で下積みしないと結局上がっていけないんじゃん、みたいな。

――確かに2000年代半ばはそういう空気感がありましたね。

KEN THE 390:うん、だから勝ち上がりの方法としてバトルが新鮮だったんですよ。当時俺の相方で志人(降神)ってやつがいて、MCバトルでそこそこいいとこまで勝つと俺らが毎月やってたレギュラーイベントに知らない一般客が来るんですよ。それまでは絶対に誰かの友達しかいなかったのに。「あの人、誰の友達?」「……知らない」みたいな(笑)。あと当日券が売れたり。当時の俺らにとっては、当日券を買ってイベントに来てくれる人がいるなんてマジでありえなかった。バトルに出て有名になるとライブを観たいと思ってもらえるんだってことが衝撃的過ぎて。「これしかない」って感じで、当時はただただ練習してましたね。

――当時恵比寿みくるで開催されていたイベント「Hervest」の主催者に話を聞いた時も同じようなこと言ってましたね。「シーンとかよくわかんなかった」って。

KEN THE 390:「Hervest」では絶対に事件が起こってましたしね(笑)。別のMCバトルで漢(a.k.a.GAMI)くんがダースレイダーさんに負けてたりすると、イベント恒例のオープンマイクでなぜかリベンジマッチが始まったり。その流れで俺とメシア(THE フライ)が何本もやらされたり、(環)ROYが呼び出されたり。オープンマイクなのに、なぜかダメレコ周りとMSC周りのバトルになっちゃってた。で、翌日に誰と誰が戦って、それがどういう内容だったかって内容のブログがバーって上がるっていう。本当に何が起こるかわかんなかったから、その不確定要素を観に来てましたよね。

――当時のダメレコVSライブラの抗争はすごい面白かったです!

KEN THE 390:それが今やダースと漢くんが一緒にやってるんだもんね。あんなに歪み合ってたのに。本当に世の中何が起こるかわかんないですよ。今の子たちはみんなそれぞれがやってることに対するリスペクトがあると思います。当時は本当にみんなただラップがしたかったんです。それで場所があればそこに行くっていう。盛り上がってない分いろんなものが混ざってたと思います。 


「試行錯誤とブラッシュアップを繰り返してバトルは独自進化した」

――今のようにヒップホップがブームになった要因は何だと思いますか?

KEN THE 390:ヒップホップはずっと面白いんですよ。僕がハマった90年代はもちろんだし、2000年代にだってダメレコ、MSC、SCAR、SD JUNKSTA……面白いやつらはいっぱいいて良い曲もいっぱいあった。けど突破口がなかった。だからみんな宇多田ヒカル級のヒップホップスターが出てくるのを待っていたんです。でもただ待ってたわけじゃくて、その鬱屈した10年間でちゃんとコンテンツ力も磨いていたんです。

――具体的には?

KEN THE 390:例えば「BBOY PARK」のMCバトルは1分ずつしか持ち時間がなかったから技の見せ合いをしてたんです。でも徐々にバトルのコミュニケーションの面白さがわかってきた。そしたら漢くんのような、今思ってることをナチュラルにフリースタイルできるラッパーが出てきたんです。じゃあもっと会話っぽくしようということで、持ち時間を8小節ずつにして、短くなった分は回数を重ねることにした。あと会話を止めないようにゴングを廃止してノンストップにしたり。バトルが面白くなるように試行錯誤して、ブラッシュアップを繰り返していったんです。

――当初はブレイクダンスみたいにスキルを見せ合うことで戦っていたと。

KEN THE 390:そう。アメリカのバトルは今でもアカペラで1分とか1分半くらい持ち時間があって技を見せ合う感じなんです。1人が終わってゴングで止めて、次って方式だと、今の日本のフリースタイルのようにバチバチな感じにはならない。キャラクターも活きにくいし、ドラマも生まれにくい。

――日本はヒップホップを独自進化させてるわけですね。

KEN THE 390:言い合いという部分に特化して進化してきたんです。流行らせようとしてそうしてなったわけじゃなくて、どうやったら面白くなるか考えた結果が今の形だった。それで今みたいにたまたまスポットが当たった時に、その明るさに耐えうる強度を持ったコンテンツが出来上がってたんだと思う。もしかしたら「BBOY PARK」のスタイルで「高校生RAP選手権」や「フリースタイルダンジョン」をやってても流行らなかったかもしれない。

「今はメディアコンテンツとして「フリースタイルダンジョン」が面白いだけ」

――「フリースタイルダンジョン」の放送が始まって何が変わったと思いますか?

KEN THE 390:みんなのヒップホップに対する興味をちょっと前のめりにさせたことだと思う。「ヒップホップって面白いの?」「ラップってなんだろう?」みたいな。そういう人に良さを説明するのは簡単なんですよね。

――聞く耳を持ってくれたと。

KEN THE 390:うん。俺らがやってた時は本当に聞く耳を持ってももらえなかった(笑)。あとラッパーにはいろんな人がいるんだっていうのも伝わったと思う。いわゆるステレオタイプな怖い人だけじゃなくて、インテリとか面白い人とか。でもまだCDを超売ってる人がいないから、次のステップはそこですよね。モンスターとかチャレンジャー、審査員の中に、超売れている人とか、武道館でライブする人がいるようになると新たな段階にいくんじゃないですかね? 今はメディアコンテンツとして「フリースタイルダンジョン」が面白いだけ。その山を越えるともっと広がって、勝手にヒップホップフェスとかが開催されると思います。

――以前あるアーティストにバトルと作品制作のバランス感について質問したら、バトルと制作では使う頭が違うから自分はバトルを止めて制作に専念することにしたと話していたんです。

KEN THE 390:そこは難しいですよね。自分がかっこいいと思うラッパー像と照らし合わせて、バトルに出るか出ないか決めればいいと思う。現状では知名度を上げるのにバトルはすごくいい手段だけど、そういう主流にラッパーとしてあえてそこに加わらないという姿勢もある。「今バトルに出るMCは全員クソだ」ってマスなものに対して唾を吐いていくって。とにかく自分がなりたいラッパーのビジョンを持つことが一番大事。ヒップホップはそうやって常にカウンターが存在することによって、光も影もどっちも発達してきた。やっぱりやるんだったら、腹くくってやらないとつまんない。


 ■「AbemaTV presents フリースタイルダンジョン東西!口迫歌合戦」

  • 配信日時:2016年12月31日(土)20:00~23:45

<出演者>

Zeebra / UZI

【東軍】

MC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻(長野)

漢 a.k.a. GAMI(東京)

KEN THE 390(東京)

サイプレス上野(神奈川)

SIMON JAP(東京)

崇勲(埼玉)

T-PABLOW(神奈川)

DOTAMA(栃木)

LICK-G(神奈川)

輪入道(千葉)

【西軍】

R-指定(大阪)

ERONE(大阪)

押忍マン(大分)

GADORO(宮崎)

KOPERU(大阪)

CIMA(大阪)

じょう(大阪)

CHICO CARLITO(沖縄)

HIDDADY(大阪)

呂布カルマ(愛知)


TEXT:宮崎敬太

PHOTO:佐野円香

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