「ヒップホップは頭が良くないとできない」ライムスターMummy-Dの、POP LIFE手帳 #7

 RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

 この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?


■日本語ラップとヤンキー感

https://youtu.be/yirVxFBnp2o

https://youtu.be/kIXrGAaSZNo


 ーーDさんも楽曲提供したIOが所属するKANDYTOWNが最近1stアルバムを発表したんですよ。いい感じで話題になってるんですけど、彼らを抜きつ抜かれつと川崎のクルーBAD HOPの勢いもすごくて。彼らの「Life Style」というPVはYouTubeですでに200万回も再生されてるんです。この2つのクルーは比較的年齢帯も近いし、大所帯ということもあって僕はつい比較して見てしまう。個人的にはKANDYTOWNのほうが好みなんだけど、世間的にはBAD HOPのほうが支持されるっぽい。BAD HOPには「フリースタイルダンジョン」にレギュラーで出演しているT-Pablowもいるし、当然といえば当然の差なのかもしれないけど、それ以上にKANDYTOWNになくてBAD HOPにあるものって、ヤンキー要素なのではないかと思ったんですよ。


 Mummy-D その2つのクルーの違いをヤンキー要素の有無という単純なことだけでは比べられないけど、それはちょっとあるかも。音楽の中におしゃれな要素がちょっと入ると引いちゃう層っていうのは確実にいるから。

ーーヒップホップ=不良ってイメージは根強いですよね。

 Mummy-D DQN(笑)。

ーー日本でのヒップホップって、すごく不良であったり、すごくポップスであったりと、極端なスタンスのアーティストでないとなかなか受け入れてもらえないですよね。

 Mummy-D わかりやすさが求められる世界だからね。何か1つ突き抜けてないと目立てないし、ステレオタイプを演じきれる人が勝つ。それはどんなジャンルでも言えることじゃないかな? 肩書きも付けやすいじゃん。「ストリートから上がってきたラッパー」とかのほうが簡単にイメージできるでしょ? でもさ、KANDYTOWNは世田谷区の恵まれた人たちでセンスがいい。しかも音楽的センスと不良っぽさを兼ね備えてるから、うまくいけばどっちも持っていけるような存在になれるよ。だけどドンキホーテ層にはちょっとわかりにくいかもね(笑)。

ーードンキホーテ!

 Mummy-D KANDYTOWNは絶対にドンキで売ってないでしょ(笑)。ブレイクスルーするには、ドンキに売ってないとダメなんだよ。DJ KAORIのMIX CDとかはドンキでバーンって並んでんじゃん。これは別にDJ KAORIをディスってるんじゃなくて、突き抜けてる何かがあるかって話なんだよね。

ーー不良マンガみたいな世界観を、男の子は心のどこかで愛しちゃってるとこはありますよね。

 Mummy-D ヒップホップのカッコよさの1つに、「周りがどうだろうと俺は俺のことをやるよ」っていうB−BOYのスタンスがあってさ。それはヤンキー文化は通ずるところはある。やっぱりヤンキー感というものは、日本でヒップホップをやる上では切り離せない。不良として育ってきた奴らはそういうイメージをバーンって押し出すし、逆にそうじゃない奴らは頭使ってその人たちなりの不良的スタンスで「俺らだって負けないよ」と戦うわけだよ。だからスタイルはそれぞれ。

ーーちなみにRHYMESTERの不良的スタンスってどんな感じですか?

 Mummy-D 今はビジュアル的な不良っぽさを出そうとは考えてないけど、はっきり言って「(RHYMESTERと)揉めたら面倒くさそうだ」っていうのはあると思う(笑)。

ーーそれはありますねー!

 Mummy-D 「詰めの甘い変なディスしたら……、お前のMC人生マジで終わるからね」っていう。

ーーDさんが言うと本当に怖いです……。

 Mummy-D でもそういうことよ。そういう何かを出してないといけないわけ。またPくん(PUNPEE)の話になるけど、彼はバトルが強いわけじゃん。DOTAMAとかもそうだけど、オタクっぽいところを武器にして強面のやつらが勝てない状況を作っちゃう、みたいな。それがヒップホップっぽいんだよ。発想の転換っていうか。なんか今日は人の名前ばっかりだしてるな……(笑)。

ーーわかりやすいです。

 Mummy-D つまりヒップホップっていうのは何かと戦ってる姿勢が重要なんだよ。それがないとヒップホップの匂いがしない。フリースタイルバトルは一番わかりやすいんだよね。あとドロップアウトした不良が学歴社会と戦ってるっていうのもそう。ヒップホップを聴く人はみんな一番最初に刺激を求めてるだろうから、リスナーが「かっこいい!」ってなるのは攻撃的な瞬間、広義の不良っぽさを感じさせる瞬間が多いんだと思う。


■ラップを始めたきっかけ

ーーDさんはどんなきっかけでラップを始めたんですか?

 Mummy-D ヒップホップを知ったきっかけがダンスなんだよ。小学校6年くらいの時にマイケル・ジャクソンのムーンウォークを観て「すげー」ってなってさ。俺はブレイクダンスをやりたいと思うようになったの。そんな時に「どうやらブレイクダンスっていうのはギャングたちが『ナイフで傷つけ合う代わりにダンスのバトルで決着をつけようぜ』ってことらしいぞ」って聞いたんだよ。それで「かっこいい!!!!」って(笑)。

ーーブレイクダンスと言えばヒップホップですもんね。

 Mummy-D 最初は後ろで鳴って音を聴いて「あの喋ってるみたいな音楽はなんだろう?」「ラップっていうんだ!?」みたいな感じだった。でもブレイクダンスの背景とともに、ヒップホップの人の曲を勝手に取ってきてその上に(曲の雰囲気と)全然違う不本意な歌詞をのっけて「俺の作品」とか言っちゃう不良性に憧れたんだよ。メインカルチャーに対する反骨心みたいなところがかっこいいと思った。

ーー小学校6年〜中学1年くらいからヒップホップに興味を持つというのは、随分早熟ですね。

 Mummy-D そう思う。普通の人が音楽に興味を持つきっかけって、先輩がバンドやってて、ギターを教わって、みたいな感じじゃん。でもうちの中学にはなぜかバンドをやってる先輩は1人もいなくて、ブレイクダンスのチームがあったんだよ。原宿のホコ天とかで踊ってるような。

 編集O めちゃかっこいいですね。

 Mummy-D 俺は先輩にブレイクダンスを教えてもらいたかったんだけど、その人たちはもんのすごく怖いの。しかもチームに入るには、先輩たちのやってる暴走族の集会にも参加しなきゃいけなかったんだよ。それは嫌じゃん(笑)。怖いじゃん(笑)。だから先輩たちが踊ってるのを遠巻きにずっと見てて。俺らは昼休みに体育館でひっそり練習したりしてたんだよね。だから俺、普通の音楽を通らないでいきなりヒップホップを好きになっちゃってるのよ。

ーーDさんくらいの年代だと、そういう人って多いんですか? いとうせいこうさんや高木完さんがヒップホップ第一世代だとすると、Dさんは第二世代にあたると思うんですが。

 Mummy-D いや、俺がヒップホップにハマったのはせいこうさんたちより前だね。彼らはRUN DMCが売れて興味を持ち始めたと思うんだけど、俺はその前から好きだったんだよね。

ーーというと、シュガーヒル・ギャングとかをリアルタイムで聴いてたということですか?

 Mummy-D そうだね、あのちょっと後くらいからヒップホップを聴き始めてるんだよ。やっぱ俺自身がちょっと変わったもの、刺激的なものを好きだったというのは大きいと思う。一番のきっかけはブレイクダンスを観て「すげー」ってなったとこだね。そこからヒップホップを好きになった。

ーーじゃあそこからダンスとヒップホップにどっぷりという感じだったんですか?

 Mummy-D いや高校に入学した頃は普通に高校生活を謳歌するんだよ(笑)。俺が行ってた中学は結構下町ノリであまりいい校風ではなかったんだよ。それこそ暴走族とかもいっぱいいたし。高校は公立の進学校で、初めて自分と同じくらいの学力の人たちのグループに属したわけ。サッカーとかやってて、サラサラヘアでそこそこモテた。スクールカーストでは絶対上の方だったよ。

ーーあら。

 Mummy-D でもね、高校2〜3年の頃になると近田春夫さんやタイニーパンクスが出てくるんだよ。それでまたヒップホップにのめり込んでいくの。で、大学に入って宇多さんに出会っちゃったから、本格的にヒップホップをやることになるんだ。

ーー出会っちゃった(笑)。

 Mummy-D そう(笑)。本格的にヒップホップを始めることになって、本格的に道を外れていくっていう。

ーーDさんは昔から頭が良いほうだったんですか?

 Mummy-D 数学系は全然できなかったけどね。

ーーだけど早稲田大学って誰でも入れるわけじゃないですよね?

 Mummy-D そりゃ大変だったよ。すっげー勉強したもん。

ーーしかも当時の早稲田大学に入るのは今よりも確実に難しいですよね?

 Mummy-D 単純に今より子供が多いからね。

ーー受験戦争の敗者である僕のような人間からすると、すごいかっこいいと思います。

 Mummy-D いや、でもね、大学は行っておいて良かった。

ーーその心は? 僕は大学もあまり希望したところに入れなかったこともあって、最近大学行く時間があるなら、高校卒業してすぐに就職してほうがいいんじゃない?って。

 Mummy-D 俺もちょっと前までそう思ってた。しかも早稲田って中退して成功する人が多くてさ。だから自分もなんでちんたらちんたら大学なんて行ってたんだろうみたいな。でも逆に今、こういうストリートカルチャーの代表みたいなことをやってると、「早稲田大学卒業」っていうのは舐められないツールとして有効に機能するんだよね。しかも俺なんかは、シーンの第一線にいるっていうより、世の中にヒップホップをアナウンスする立場になったから、いろんな場面で余計に「ああ大学出ておいて良かったぁ〜」って思うよ。

ーープロップスという部分で有利に働くと。

 Mummy-D いやいや。そうじゃくて、俺はヒップホップをいろんな人に伝える立場になったわけじゃない? 「ヒップホップっていうのはものすごく頭良くないとできない」んだよ。みんなはヤンキー的とか思ってるかもしれないけど。それを世の中にアピールする時、「早稲田大学卒業」っていうのはすごく便利なんだよ。

 編集M 説得力が増す的な?

 Mummy-D そうね。

 編集O かなり興味深いお話ばかりでした!

 Mummy-D たまに「レールに乗って生きてたほうが良かったかな〜」とか思うこともあるけどね(笑)。40代になるとひしひしと感じるけど、最近俺の人生面白いなって思ったりもするし。大変だから。変な仕事もすげー増えてきたし。

ーーこの連載を筆頭に。

 Mummy-D (笑)。役者とか、大学で講義したり、ニコ生で歴史を語ったりね。最近振り幅がデカすぎて大変だけど。

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