「逃げろ!だよね。がんばれじゃなく。」ライムスターMummy-Dの、POP LIFE手帳 #6

RHYMESTERは日本のヒップホップの歴史を作ってきました。その功績すべてをここで紹介することはできないけど、中でもあまり着目されてない点を1つ挙げるなら、それは彼らの繊細な視点と独特な発想力であると思います。当たり前の日常をちょっとわくわくするエンターテインメントに変えてしまうモノの見方、それが彼らの真骨頂なのです。

この連載はあなたの暮らしをちょっとポップにするための読み物です。社会の大きな出来事から日常の些細なもやもやまで、Mummy-Dと一緒に考えてみてはいかがですか?


■「逃げろ!」「甘えろ!」

――電通の新入社員の女性が過労自殺してしまったことで、最近日本の働きすぎるメンタリティに注目が集まっていますよね。僕はまだ会社を辞めて1年しか経ってないんで偉そうなことは言えませんが、自分みたいなしょうもないやつですら、会社に属してなくても「意外とやれるな」というのは感じました。

Mummy-D 俺もいわゆる会社組織に属したことないからなんとも言えないんだけどね……。


――実は僕は鬱病になって会社を辞めたので、このニュースにはなんとも言えない気分にさせられたんですよ。仕事に追われて焦燥したり、環境に軋轢を感じたり、辛くても「自分が会社を辞めてやっていけるのか?」という思いがすごくあったから八方塞がりでしたね。だから自殺してしまった女性の気持ちがすごくわかる。鬱になると心の抵抗力が著しくなくなります。例えばコピーがうまくとれないだけで絶望的になる。「こんな簡単なことすらできないのか」と。しかもそれがトラウマのように心に深く刻み込まれてしまう。客観的に考えればそんな考え方は馬鹿げてるけど、鬱病は本当にそんなふうになってしまう深刻な病気なんです。

Mummy-D そうだね。鬱だと冷静な判断はできなくなっちゃうだろうね。自殺してしまった彼女だってもしかしたら会社を休めたのかもしれないし、ドロップアウトすることもできたかもしれないのに。真面目な人ほど鬱病になりやすいそうだね。


――本当に鬱病は難しい病気で、多くの場合本人も病気を認識できないんですよ。もしくは病気になっていることを認めたがらない。そうなると本人がわからないものを他人がわかるわけない。しかも鬱病にかかってる人は世の中のあらゆる非がすべて自分の責任だと思うようなところがある。だから上司や環境に問題があったとしても、大抵はそれに気づけません。身体的な異変が出ちゃう人もいるけど、全然出ない人もいる。真面目な人は余計に思い詰めてしまう。

Mummy-D 責任感が強い人は簡単に物事を投げ出したりしないだろうしね。マネージャーTも働きすぎだよね?

マネージャーT う〜ん。確かに働いてる時間は長いですけど、どの現場も楽しいですよ。大変なことを挙げるとすれば、マネージャーという仕事なので当たり前ですが、三者三様の人間関係を把握して、各所でベストな対応をしていかなきゃいけないことですね。


――今のRHYMESTERの活動は多岐にわたってますもんね。

マネージャーT まずは応援してくださっているRHYMESTERのファンのみなさんに、公式としてどんな写真や情報をUPするか・最近の活動は何をしているかをどう伝えるかというのを考えたり。

人間関係でいうと、DさんはHIPHOPやジャンルを超えたアーティストさん、宇多丸さんは芸能人の方や さまざまなジャンルの研究をされたり活躍されていらっしゃる方たち、JINさんは全国各地のDJさんやクラブの現場の方たちとそれぞれ密接につながっていて。みんな関わっている方々や現場が全然違うので、日によっては昼間にDさんの客演のリハーサル、夕方にJINさんのDJ、夜に宇多丸さんのレギュラー番組の生放送という掛け持ちの日もあって、かなり振り幅がありますね。

そういった人間関係や各現場の内容を把握しながらうまく動ければもっといい仕事ができるんですけど、たまに抜けちゃうときもあります…。

Mummy-D Oくんはどうなの? サイバーエージェント。

編集O そうですね……、うちの会社は手練れたちが集まってて、しかもみんなすごく団結しているから新入社員とか社会人1年目の人は最初戸惑うかもしれないです。実は俺、ここが7社目なんですよ。ずっとウェブ媒体で編集の仕事をやってきたんですが、そろそろ尊敬できる人の下で働きたいと思うようになって。そんな折に、自分が書いた記事がきっかけで今の職場に来られるようになったんです。そんな感じだから、俺は会社の他の人たちの状況とかを客観的に見られます。だから、あまり思い詰めることとかはないですね。

Mummy-D 

確かに「会社こそが全てだ」って環境の中にいきなり置かれちゃうと、ドロップアウトなんか考えられないよね。もしもそういう子に「世界は広いんだから大丈夫」「世の中は半径数キロの地元だけじゃない」みたいなメッセージを届けることができたら救えたのかもしれない。これはいじめで自殺しちゃう中学生とかにも言えることなんだけどね。

編集O 亡くなった人はSOSのツイートをかなりしてたらしいんですけど、誰もキャッチアップできなかったんですよね。


――僕は妻が体調を崩して休職することになったから、共倒れにならないためにも何かアクションを起こして状況を変えざるえなかったんですよ。

それで本当に思い切って会社を辞めたんですけど、結局なんとかなってるんですよね。先のことを今考えても仕方がないというか。本当に会社だけが世界じゃないんで、辞めたらまた別の世界が必ずあるんだよっていうのは言いたいです。

Mummy-D 「逃げろ!」だよね。「がんばれ」じゃなく。


――僕は大きな会社ってローリスクローリターンだからこそ所属する意味があると思う。命を削ってまで勤めることはない。

Mummy-D 会社を辞めると落ちこぼれちゃう、って恐怖心を持ってる人は多いかもね。

編集M それは見えないプレッシャーですよ。でも会社を辞めることが落ちこぼれるわけではない。

Mummy-D 俺なんかは肩書きが自営業でしょ。

「日本語ラップのパイオニア」って言われりゃ聞こえはいいけど、逆にを言えば俺らは相談できる人が誰もいないんだよ。日本語ラップ界で俺らに先輩や上司というものが存在しないから、すべて自分たちで考えて舵取りをしてきた。

確かに若い頃は居心地良かった。ちやほやもされたし。だけど40を過ぎたあたりで、アーティストとしての壁にぶち当たったんだよ。

その時、初めて「上司欲しいな」「上から何か言われたいな」って思った。誰かに甘えたくなった(笑)。


――本当に辛い時は誰かに甘えたっていい、と。

Mummy-D そうそう。俺みたいに好き勝手やってきた人間ですら、甘えたいって思うくらいなんだからさ。頑張らずに甘えたっていいんだよ。


■ハロウィンとワールドカップとSNS


――僕、ハロウィンが大っ嫌いなんです。

Mummy-D 来たっ!


――ここ数年の盛り上がり方は異常じゃないですか。しかも今年は渋谷のスクランブル交差点をハロウィンの期間中、歩行者天国にしてましたよね。本末転倒も甚だしい。RHYMESTER「人間交差点」で言うところの一番ダメな交差点ですよ。この異常なハロウィン熱は何がきっかけなんでしょうね?

マネージャーT 3〜4年前から急にですよね。クラブでも「ハロウィンナイト」みたいな仮装イベントが増えてきました。


――僕、本当にびっくりしたんですよ。数年前ヘロヘロになった会社帰りに、偶然渋谷であの仮装してる人たちを大量に見かけて。本当に全員ファックだなって思いました。

Mummy-D 

心狭いねぇ(笑)。気持ちがいいほどの較量さ! 予想の範囲内!

マネージャーT 夏もファックで、ハロウィンもファックで(笑)。


――クリスマスもファックですね。

Mummy-D 読者の皆様も「またこいつ言ってるよ」って思ってらっしゃいますよ(笑)。とは言え、俺もこの現象について気になったから前に調べたんだよ。「宗教的な何かなのかな?」とか。でもよくわからないんだよ。ウィキとか読むと悪魔信仰が起源になってるらしいんだけど、全然ピンとこないんだよね。モヤモヤしてる。

編集M どこの国のものなんですか?

Mummy-D そこも判然としないんだよ。でもさ、確かにスクランブル交差点に集まる奴らはムカつくよね(笑)。ワールドカップの時もそうなんだけど、あいつらは調子に乗ってる。たぶんサムライブルーのユニフォームを着て騒いでた奴らと、ハロウィンの仮装して盛り上がってるやつらは同じ種類のやつらなんだよ。

マネージャーT 確かに私が昔通っていた学校でも、普段大人しい人たちがこぞって仮装して騒ぎに渋谷に行ってました!

Mummy-D 

これは俺の持論なんだけど、あいつらにとってハロウィンは新しいイベントで、参加することがかっこいいと思ってるんだよ。

だけど俺の子供の世代なんかでは、ハロウィンに仮装して友達の家に回ってお菓子もらい合うなんてことはすでに定番イベントなの。新しくもなんともない。だからその世代がその世代がハイティーンになったり20代になったら、もうハロウィンでは騒がないと思う。目新しくなくて、子供の頃の思い出みたいなことで。


――新しいイベントにやたらと参加したがるっていうのもクソダサい感性ですね。

Mummy-D 

そういったイベントに参加していることが彼らにとっては重要なの。俺はそれがSNS文化の発達とかなり関係していると思っててさ。

つまり現場で自撮りして発信したいんだよ。祭りだと従来からあるものだから自分を主役にするには場として弱い。でもハロウィンのスクランブル交差点はあの人たちにとって、劇場になりうるんだよ。そこでそれぞれが主役になってる。写真を撮って、LINEやメールでそれを送り合ったり、SNSにアップして誰かとつながったりする。

そこまでがセットになってると思うよ。むしろSNSに上げることがメインでしょ。


――本当にダサい。相容れない類の人間たちだわぁ……。

Mummy-D まぁまぁ……。子供のハロウィンパーティはかわいいんだぜ。来年はそっちに目を向けるといいよ。

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