ドゥテルテ大統領が「反米・親中」へ その思惑と影響を専門家が解説

南シナ海の領有問題を巡り、激しく対立していた中国とフィリピンとの関係がここにきて劇的に変化し始めている。

今年7月、国際仲裁裁判所は、フィリピンの訴えを認め、中国の領有権は認めないという最終判断を下していた。これに対し中国は「南シナ海諸島は中国の領土である」と受け入れない姿勢をみせていた。しかし、仲裁裁判所に申し立てたのは、アキノ前大統領。ドゥテルテ大統領は、この最終判断が出る直前に就任した。

そして20日、歓迎ムードでドゥテルテ大統領を迎えた習近平国家主席。習主席は首脳会談で、二国間の合意が難しい南シナ海の領有問題を一時的に“棚上げ”してもよいとし、これにドゥテルテ大統領は異論を唱えなかったとみられている。

ドゥテルテ大統領は、容疑者の殺害もいとわない麻薬撲滅計画を進めている。これまでに射殺された容疑者は1500人以上で、その後、殺害を恐れ73万人以上が自首をしたという。中国はこの強硬策に理解を示し、多額の援助を申し出たが、アメリカは人権を無視したやり方として強く批判していた。

そしてドゥテルテはアメリカと決別し、中国に頼る意思を表明。この発言を受け、カービー国務省報道官が「アメリカから距離を置くという発言が実際何を意味するのか説明を求めていくつもりだ。」とコメントした。

麻薬撲滅に関して批判してきたアメリカに、反発の姿勢を示しているドゥテルテ大統領。AbemaTV『AbemaPrime』では、ドゥテルテ大統領の外交姿勢から見えてくる影響について、東南アジアなどの政治に詳しいアジア経済研究所 地域研究センターの川中豪(かわなか・たけし)さんと、フィリピン在住のノンフィクション作家・水谷竹秀(みずたに・たけひで)さんに話を聞いた。

――今回の米国との決別宣言、ドゥテルテ大統領の思惑は?

川中氏「フィリピンは中国から経済支援を受けたいという思惑がメインにある。背景にはいろいろありますが、ドゥテルテ大統領がもっともやりたいのは国内の麻薬撲滅。これにアメリカからケチをつけられたのが面白くないということですね。」

――フィリピンは中国と領有権問題で争っていた。大統領が変わった瞬間に“棚上げでいいかな”って、どういうことなのでしょうか?

川中氏「ドゥテルテさんはかなり揺れているのです。経済的支援があるということ、麻薬撲滅について中国は支持してくれたということがあって、今またそれで対立関係に陥ることは得策ではないという判断があったのだと思います。」

■フィリピン現地ではどう受け止められているのか

――ドゥテルテ大統領の中国訪問を、フィリピンメディアはどのように伝えているのでしょうか?   

水谷氏(Skype中継)「中国とフィリピンが握手をしているようなイラストを大きく載せるなど、今最も結びつきが強いと報じられています。好意的かどうかはさておいて、中国から経済支援を受けたということが全面的に出ています。」

――中国と距離が近づいた?

水谷氏「(ドゥテルテ大統領は)麻薬撲滅に関しては絶対に譲れないということがあって、自首してきた人たちを収容する場所が問題になっている。その収容施設のひとつを中国が支援するという形で建設がすすんでいるということなので、ドゥテルテさんのやりたい政策に対して理解をしてくれる中国に歩み寄りをみせたということです。」

――実は、フィリピンの国民は、アメリカを信頼している人が多いという調査結果があるんです。「フィリピン国民の外国に対する信頼度調査」によれば、「アメリカを信頼する」が76%「中国を信頼する」が22%。国民はアメリカが好きだが、今、国として中国と手を結ぶ。この調査結果を見てどのように思いますか?

水谷氏「うーん…一般の人って、正直、外交政策に関心がないと思うんです。それよりも国内の渋滞問題を解消してほしいといった、日々の生活をより良くして欲しいことのほうが重要。」

■ドゥテルテ大統領の「アメリカと縁を切る」 政府内は困惑?

川中氏「目に見えて治安が良くなっているというのは、肌で感じていると思います。支持率については、期待を超えて高いという状況。ただアメリカとの関係を切るというのは、外務省とか外務長官、国防省というのはかなり困惑していると思います。ドゥテルテさんが何か発言するたびに、必ず『あれは冗談だった』とか『コンテクスト(文脈)があるのでそのまま受け止めることはできない』と火消しに走るのです。外務省や国防省はアメリカとの関係を作るために一生懸命やっていて、ドゥテルテさんは一つのパフォーマンスでああいう発言をしている、と。」

――軍事同盟、安全保障でいうと、フィリピンはこれまでアメリカと一緒に歩調をあわせてやってきて、同じ側に日本もいる。ドゥテルテ大統領が今月25日に日本を訪れますが、日本には何を要求してくると思いますか?

川中氏「日本にとっては、かなり困惑する状況になっていると思います。ひとつは南シナ海の領海問題を棚上げしてしまった。今まではフィリピンが先頭に立って中国と対峙して、それを日本とアメリカが支えていたが、当のフィリピンが降りてしまうとその構図が成り立たない。そうすると日本は中国との関係をどうするのか、ひとつ大きな石が落とされてしまったようなことになっている。そのなかでいかにフィリピンを(日本と)アメリカのなかに引き込むのか。かなり難しい戦略を安倍政権がとらなければいけないという状況になっているのではないでしょうか」

また川口氏は、日本が、フィリピンに円借款をしていることも指摘。「そのバランスをフィリピンがどう考えているのか」とコメント。25日、日本とドゥテルテ大統領とのやりとりが注目される。

続きを見る

0コメント

  • 1000 / 1000