アカデミー賞ノミネート作品『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』 トム・ムーア監督単独インタビュー【後編】

第87回アカデミー賞長編映画賞にノミネートされ、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワードで見事長編アニメ賞に輝いた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。このたび、8月20 日(土)の日本公開に先駆け来日したトム・ムーア監督に、単独インタビューを敢行。後編では、監督ご自身のスタジオの運営方針と、自ら大ファンだと公言する宮崎駿や高畑勲監督らが手がけた日本のアニメーションに対する熱い思いを、たっぷりお届けしたい。

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ー―繊細な感情表現も、本作の魅力の1つですよね。いわゆるディズニー作品や、カートゥーンでは、キャラクターがオーバーにリアクションすることが多いと思うんですが、監督はどちらかというと日本のアニメーションの影響を受けられているのでしょうか?


トム:ディズニーはアメリカンスタイルだと思うんです。『フレンズ』という有名なドラマがありますけど、なんでも元気に表現するっていうのが、アメリカのスタイルなんじゃないかなと。穏やかな映像の中に感情の機微を込めていくという手法は、たとえば高畑勲監督の『火垂るの墓』や、宮崎駿監督の手がけたスタジオジブリ作品の影響を受けているといえるかもしれません。かつて宮崎監督が、拍手の間の空間、「間」っていうものについて語っていたのが印象的だったんです。拍手というのは、手と手を合わせる時の間ですね。宮崎監督は、おそらく静寂と音があるとすれば、静寂の部分に自分は注目するって言っているんじゃないかなと。アメリカ的なものは、むしろどういう音が聞こえてくるかっていうことに興味や関心が行き過ぎていて、静かなところには目を向けていないというか……。僕は、アニメーションには、キャラクターのジェスチャー以外にも、たとえば色使いや音、画面構成といったように、いろんな形で感情を伝えることが出来る要素がたくさんあるんじゃないかと思うんです。


ー―監督はカートゥーン・サルーンというスタジオを設立されて、そこで本作などのアニメーション作品を数多く制作されていますが、どのような設備のあるスタジオで、どのようにして作品を作られているのか教えていただけますか? たとえば宮崎駿監督は、アニメを作るときに絵コンテを描いて、原画を描く、というように仕事をされていましたが。


トム:僕は宮崎監督のように天才ではありません。主なストーリー作りのほかに、キャラクターデザインや絵コンテについてもメインのところは僕がやるんですが、そのあとはチームと一緒にやっていくことに喜びを感じています。かなり早い段階から、チームのメンバーには参入してもらうようにしているんです。いま80人くらいが僕のスタジオで働いているんですが、彼らのほかに、ベルギー・デンマーク・フランスからもたくさんのアーティストが参加してくれています。それぞれのスタジオのメインメンバーをアイルランドに招いて何か月間か僕らと一緒に仕事をしてもらい、僕らのスタイルを学んでもらっています。そうすることによって、彼らは下請けをさせられていると思うのではなく、「これは自分たちの映画だ」っていう想いを強く持ってくれるような気がするんです。


ー―チームワークをすごく大切にされているわけですね?


トム:映画作りにはかなりの時間と年月を費やすので、僕にとっては、結果よりそのプロセスがとても大事だと思っています。つまり日常をどのように過ごすかということなんですけど、毎日が楽しくて、作業している時間が充実していれば、たとえどんなにひどい映画になったとしても、人生の無駄ではなかったと思えるじゃないですか。このチームのメンバーが心から楽しんで「自分たちの映画を作っているんだ」という自覚を持ってもらうことで、よりよい働きをしてくれるんだと思います。これをしろ、あれをしろ、と命令されるよりは、はるかによい貢献をしてもらえるんじゃないかな。


ー―さきほど宮崎駿監督や、高畑勲監督の名前が出ましたが、その方々以外に、日本のアニメーション作家、好きな作品や影響を受けた作品があれば教えていただけますか?


トム:影響を受けたというよりも、僕自身がファンなので、純粋に好きだということがありますね。今敏さんや山村浩二さんといった方たちです。日本のTVアニメは何か規範に縛られている感じがしてそれほど好きではないので、主に日本の劇映画と短編映画を観ています。高畑さんや山村さんは、アニメーションが持っているすべての要素と可能性を駆使して、アニメーションを進化させることに貢献していると感じます。アニメーションというのは、将来的にもっともっと開拓できる分野ではないかと思うんです。


たとえば『マインド・ゲーム』。この作品を観たときは衝撃を受けて、興奮のあまりツイッターで「このような映画のためにアニメーションは発明されたのだ」と呟きました(笑)。 自分が作る映画とは全然スタイルが違うんですけどね。え~っと、『マインド・ゲーム』の監督の名前は?


ー―湯浅政明監督ですね。


トム:マサアキ・ユアサ! ほかに好きなのは『かぐや姫の物語』ですね。これも表現力がとても豊かで、実写でやろうとしていることのコピーではない、アニメーションオリジナルのものを表現しようとしている。たとえば、線の引き方ひとつにしても、シーンによって変えたりしていて、自由度の高さでいえば、まるで音楽のようです。ステージの上の演劇を観るのと比較して、まったく対照的な自由度です。


ー―日本のアニメーションファンに向けて、ぜひ一言メッセージをお願いします。


トム:僕は長い間日本のアニメーションのファンでしたので、今回アイルランドのアニメーション映画を日本の皆さんに観ていただけることを、とても嬉しく光栄に思っています。『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』をぜひ楽しんでください!


ー―ありがとうございました!


インタビュー中、監督の腕のタトゥーの模様に惹かれ、そこに刻まれた意味を尋ねてみると、「僕の妻の名前と「愛」という言葉を、昔のピクト文字で表現しています。スコットランドにはピクト人の文化っていうのが、古代史にあるんですね。そのピクトの文化からインスピレーションを受けたタトゥーです。映画の中でも、背景に全部この古代のピクト文字を書き込んでいるんです」と教えてくれた。


まさに、神話をもとに「愛」とファミリーのつながりを描いた本作の象徴ともいえるだろう。この夏、ぜひ劇場に足を運び、トム監督の奏でる「海のうた」に包まれてみてはいかがだろうか?



取材・文/渡邊玲子

取材・編集/加藤真大


『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』

2016年8月20日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開

©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

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