アカデミー賞ノミネート作品『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』 トム・ムーア監督単独インタビュー【前編】

第87回アカデミー賞長編映画賞にノミネートされ、第28回ヨーロピアン・フィルム・アワードで見事長編アニメ賞に輝いた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。アザラシの妖精にまつわるアイルランドの神話をもとに誕生した本作は、母が残した“美しいうた”を頼りに、幼いふたりの兄妹が大冒険を繰り広げる、切なくも愛しい物語だ。

このたび、8月20 日(土)の日本公開に先駆け来日したトム・ムーア監督に、単独インタビューを敢行。その模様を、たっぷりとお届けしていく。インタビュー前編では、監督ご自身の幼少時代の思い出と、本作とご家族との素敵なかかわりについてじっくりと伺った。


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――歌のすばらしさはもちろんですが、男の子のしゃべり方が可愛らしくて、作品冒頭からすっかり心を掴まれました!


トム:回想シーンのベンは、私の甥っ子の声なんです。


――そうなんですね! 監督のお顔は、本作に登場するキャラクターと似ていらっしゃいますね。特にクリッとした目がそっくりです。


トム:息子をモデルにしたからかな? 息子の名前もベンっていうんだけど、こういうキョトンとした目をしていて(笑)。


――それは可愛いですね! 映画でも、ついつい意地悪をしちゃうんだけど、妹を守ってあげたいという、お兄ちゃん(ベン)のキャラクターが印象的でした。この物語は、アイルランドに伝わる神話をベースにされているそうですが、監督のご家族の思い出も、ストーリーに反映されていらっしゃるんですか?


トム:実際、僕にも妹がいるんだけど、映画のベンみたいに意地悪をしてましたね(笑)。妹は歌がすごく上手で、僕は下手だったから、彼女に嫉妬してたんです。この映画を観る子どもたちにも、兄妹間のライバル関係は、きっと共感してもらえるんじゃないかな。ベンの場合は、お母さんを亡くしたっていう悲しみが1つのエクスキューズにはなっているんだけど、僕の場合はそういう理由はなくて、単なるイヤな奴でした(笑)。ベンが妹を犬のひもでつないで引っ張るシーンも実体験です。子守をしろと言われて、つないでおこうと思って(笑)


――もしかして、監督もあんなに大きなワンちゃんを飼われていたんですか?


トム:ええ。名前も「クー」でした。「クー」はゲール語で犬という意味だから、「犬」っていう名前の犬なんです(笑)。犬種も同じくオールド・イングリッシュ・シープドッグ。さすがに背中に乗れるほど大きくはなかったですけどね(笑) 。


▲人間のお父さんとアザラシの妖精・セルキーの母との間に誕生した、意地悪だけど妹思いの兄・ベンと、6歳になっても言葉を話さない妹・シアーシャ。


▲お母さんがいなくなったのは妹のせいだと思っているベンは、ことあるごとに、妹に意地悪をしてしまう。


――本作は小さな子どもたちに向けて、『ジャングル・ブック』や『となりのトトロ』のように、成長に合わせて繰り返し観ることのできる作品を目指したそうですね。子どもにとって、本作が初めての映画体験になるかもしれない、という点について、意識されましたか?


トム:子どものときに観た映画って、忘れられないものが多いんですよね。何度も繰り返し観たりして、その後の人格形成にも大きく影響を及ぼしていることを僕自身が実感しているので、その責任は大きいなと思っています。実は、映画1作目を作った時に気付いたことなんですけど、子どもって、1度気持ちが離れちゃうと、もう2度と取り戻すことができないんです。だから、最初から心をしっかり捉えておかないとダメだっていうことを意識しています。大人になると、たとえば(難解で知られる)テレンス・マリック監督の映画でも、「よしっ、これは名作だから、難しくても一生懸命観てみよう」と自発的に思えるけど、子どもはそうはいかない。僕の妻が小学校で教えていたりもするので、制作中の映像を小学校で子どもたちと一緒に観てもらって、反応や印象を聞いたりもしました。


――なるほど。ちなみに監督にとっての最初の映画体験は?


トム:『白雪姫』です。魔女が怖くて仕方がなかったです。怖いシーンは、後ろを振り向いて、映写室を見たらいいよって父から言われたんです。怖い魔女も小っちゃく見えるから、そんな怖くないよって。魔女は大スクリーンで観ると、けっこう怖いですよね。


――その体験は、監督のその後の人生にも影響を与えていますか?


トム:イエス! いまでも怖い時は目を背けたくなりますね(笑)。


――本作のテーマの1つに「子を想う母心」があると思うんです。お母さんとベンやシアーシャの関係に限らず、魔女のマカも巨人のマクリルを、そしておばあちゃんもお父さんのことを想っていますよね。子を想うあまりに取る母の行動が極端すぎて、誤解が生まれたりもするんですけど。そういう関係性の描き方が、この物語に普遍性をもたらしていると感じたのですが、監督はどのように意図されていますか?


トム:確かに、そういった人間関係がもたらす苦しみのようなものには、普遍性があるんじゃないかなと思います。たとえば、おばあちゃんが大人になった息子に対して、すごく権力を行使してコントロールしようとするのはアイルランド特有なのかなと思っていたんですが、そういったお母さんのパワーみたいなものは、アメリカでもフランスでも「ウチのお母さんにそっくりだよ」と言われたので、おそらく普遍性があるんでしょうね。ちなみに、フランス版の歌の部分を、ノルウェン・ルロワという女性の歌手が歌っているんですが、フランス語で「海の歌」は「シャン・ドゥ・ラ・メール」と言うんです。実は、「メール」という言葉には、「海」という意味だけでなく、「母」という意味もあるので、「母の歌」っていう風にも呼べるんじゃないかと、彼女も言っていましたね。


――この作品の特徴は、歌で物語を伝えるというところにありますよね。これはアイルランドの口承文化が根底にあるのか、それとも、アイルランドの神話を現代風にアレンジして作られるにあたって、歌にしたほうがより一層子どもたちにもストーリーを伝えやすいと思われたからなのでしょうか?


トム:その両方が当てはまると思いますね。たしかにアイルランドの口承文化は根強くて、視覚的なものや映像的な文化よりも、長年影響力が大きかったと思います。歌は、とても大きなメディアと言えますよね。感情移入しやすいし、直接的に人々に訴えかけて、インパクトを与える機能を持っている。たとえ物語がなくても、歌自体が感情やメランコリーを伝えられるから、そういった意味でもこの映画にとって、「歌にする」というのはすごく重要なことでした。



監督ご自身の幼少時代の思い出や、本作とご家族との素敵な関係性が伝わるエピソードが次々と飛び出し、終始アットホームな雰囲気に包まれた今回のインタビュー。後編では、いよいよトム監督のアニメーション制作の神髄に迫っていきたい。




取材・文/渡邊玲子

取材・編集/加藤真大

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』

2016年8月20日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開

©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

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