昼の番組で禁止薬物トーク 愛甲猛こそ生放送に必要な人材だ

あなたは、愛甲猛のトークを聞いたことがあるだろうか。絶妙な例えで周囲を幻惑し、独特の視点で意表を突く。甲子園優勝投手としてロッテに入団し、打者転向後にはパ・リーグの連続フルイニング出場記録を持つほどの大選手だった愛甲は野球だけでなく、トークでも超一流だ。

これまで地上波のテレビ番組に出ると、愛甲は暴露要員としてクローズアップされていた。「球界の裏事情を暴露」「野球賭博について語る」……。

独特の風貌や『球界の野良犬』という著作を考えれば、仕方ないことかもしれない。

たしかに、テレビを見てもらうには、煽りが必要だ。しかし、前振りが過ぎると変なイメージばかり付いて、愛甲猛が本来持つトーク能力を生かし切れなくなる。危ない人という勝手な印象ばかりが残ってしまうからだ。


その点において、8月1日放送の『バイキング』(フジテレビ系)の愛甲の起用法は斬新だった。番組では、ほぼ全編に渡り、開幕直前のリオ五輪について、トークを展開。そこには、以下のメンバーが名を連ねた。

清水宏保  男子スピードスケート 長野五輪 金メダリスト

室伏由佳  女子ハンマー投げ   アテネ五輪 出場

山本博   男子アーチェリー   アテネ五輪 銀メダリスト

高橋みゆき 女子バレーボール   アテネ・北京五輪 出場 

愛甲猛   元プロ野球選手    野球評論家


……え???

なんで、五輪の企画に愛甲が出るんだよ!! 

紹介の際には「俺、オリンピック関係ないよね…?」と本人も困惑気味だ。

 

番組では、まず『シャワーから水しか出ない オリンピック選手村ってどうなの!?』という議題を取り上げた。

すると、元女子バレー選手の高橋みゆきが「選手村は選手のコンディションを整える一番大事な場所。開催国がその環境を作るのは当たり前のこと。数年前から決まっているのに、こういう不備が出るのはおかしい」と滔々と正論を述べる中、愛甲は「でも、川崎球場より良いと思いますよ。あそこはベンチが水没するんですから」と劣悪だったロッテ時代の本拠地を懐古。やっぱり、オリンピックとは関係なし! しかも、途中からテレビをつけた人は「なぜ愛甲がパネラーにいるんだ」という違和感が拭えない!

 

ただ、ここから愛甲はコメンテーターとしての潜在能力の高さを垣間見せる。

軽くヒトボケをかました後、「IOCがなぜ事前にチェックしないのか」ときちんとした意見も述べる。その流れに乗じて、愛甲と横浜高校で同級生だった山本博がIOCの対応について話を進めた。愛甲の見事なパスだしで、番組はスムーズに展開していった。

引く所は引く。出る所は出る。90年代半ばの森脇健児のように、無用に出しゃばることもない。チェッカーズの高杢のように、郁弥の後ろで無駄に大きく手拍子することもない。節度をわきまえているのだ。


番組の議題は『ロシアドーピング問題 違反歴のない陸上選手まで出場できないってどうなの!?』に代わった。「薬学部の生徒かと思うほど、知識が豊富」とやくみつるが褒めるほど、コメンテーターがドーピングについて語る。それほど知識を持っていないと、ちょっとした風邪薬を飲んだだけで疑われてしまうため、各人ともよく勉強している模様だ。愛甲は特に発言することなく、押し黙っている。そりゃそうだ、ここでは18番の川崎球場の例えも使えない。そもそも、なぜ五輪企画で愛甲を呼んだのか……。

<このあと 徹底討論!ロシアのドーピング問題に怒り…>との前振りの後、CMが流れる。愛甲の出番もなさそうだし、収穫したてのじゃがいも顔こと恵俊彰のMC番組でも見るか…と浮気をしそうになる。そういえば、このまえヒロシ&キーボーの片割れが万引き容疑で捕まっていたな…なんて考えているうちにCMが明けた。

すると、司会のブラックマヨネーズの小杉竜一がいきなり話し始めた。

「愛甲さんも現役時代、筋肉増強剤を使っていたという話をされていましたけど」


……えっ~~!!ほぼ主婦しか見てないお昼の時間帯で、いきなり愛甲にドーピング話を振るのかよ!!深夜でもアウトだろ!! 

すると、愛甲は淡々と話し始めた。

「当時、アメリカの薬局でも売っていたもので、日本の医者に処方して送ってもらった。クスリを飲んだら、1日水を4リットル飲んでくれといわれて。臓器にものすごい負担が掛かるので」

小杉が「当時は禁止薬物ではなかったんですよね」と振っても、愛甲は「それ以降は禁止になった」と自分の過去を決して肯定しない。

おい!鳥越俊太郎!! おまえに足りないのは、この潔さだよ!!


「筋肉が出来ていく早さは凄いですね。体重95キロで体脂肪率11%でしたから。引退した年に死にかけました。副作用で。閉塞性動脈硬化症という病気で、血管が70歳くらいの固さになっちゃって。血が足に下がったまま、上がってこない」

坂上忍に「選手心理としてはやってしまうもの?」と聞かれると、「でも、実際は辞めた方がいいですね、経験上」と実に冷静に話す愛甲。最終的には、「メジャーの投手で筋肉が締まって、(投げた瞬間)腕の骨が折れた選手がいた」という類希なるドーピング知識も披露。 

どうだ! こんな話、愛甲にしかできないだろ!!

 

「恵俊彰(取れ立てのじゃがいも顔)の司会がソツなさ過ぎて物足りない」とチャンネルを変えた主婦が、いきなり愛甲のドーピング体験話を聞かされるのである!

この違和感こそテレビの醍醐味! 

普通の番組であれば、番組冒頭から散々煽りを行なった挙げ句、CM前に『この後、愛甲が自身のドーピング体験について語る!』と大きな文字と顔写真が映し出される。そして、CMを跨いで、愛甲が話し出す展開になる。

視聴者は「愛甲=暴露要員」という認識を持って、色眼鏡で愛甲を見ることにならざるを得ない。すると、話の面白さは半減してしまうのである。

『バイキング』では、しれっと愛甲が五輪選手に交じって座り、何の前触れもなく突然、自分のドーピング体験を話す。この衝撃性といったらない。


危険な香りがするからこそ、あえて普通に登場させる。

危険な香りがするからこそ、生放送で起用する。

『バイキング』の愛甲の起用法は、往年の稲尾監督を思い起こさせるような素晴らしい采配だった。テレビ界に蔓延する愛甲の間違った取り扱い方を、是正してくれたのだ。

その後も愛甲は、『一流選手が続々事態 せっかくのオリンピックなのに なんで辞退しちゃうの!?』というテーマになると、「プロは五輪に出て、メダルを取れなかったことのリスクを考えるんですよ」というプロならではの視点で解説。最後は得意の野球賭博問題について、「野球をやっている人間が絶対に手を出してはいけない」と力説。最終的には、メインMCで野球好きの坂上忍にイジられるほど、番組にフィットしていた。

愛甲猛は単なる暴露要員ではなく、ボケられるし、独自の目線で語れる。そして、誰にもない経験談で視聴者を惹き付けられる! その上、野球への愛情は半端ない!

こうなったら、AbemaTVの『坂上忍VSトンデモ女~お前の正体暴いてやる!~』に出て、世のトンデモ女に冷静な突っ込みを入れてほしい!


文・シエ藤

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